ワクチン後遺症による歩行障害の中医学的考察

新型コロナ後遺症、ワクチン後遺症では歩行障害が出ることが報告されています。(2022, Keklicek)(2022, Lau)

ワクチン後遺症としては、ギラン・バレー症候群(2021, Razok)や多発性硬化症(2022, Nabizadeh)などの副作用ではなく、歩行障害が出現して車椅子生活を余儀なくされるケースがあります。(ワクチン副作用の1000の査読付き論文)

中医学では、肝胆系病証の中風と肢体系病証の痿証で歩行障害が起こってきます。

後遺症で起こる歩行障害は、スパイクタンパク質が湿邪(熱痰)となり、経絡を侵すことで、この中風と痿証が絡み合って起こってきます。

中風とは西洋医学での脳卒中、痿証は筋力低下による運動障害を意味します。

■肝胆系病証の中風の7つの証候

中経絡経絡空虚、風邪入中正気不足で経絡が空虚になり、風邪が中に入る
肝腎陰虚、風痰上擾不摂生や久病などにより肝腎陰虚から陰虚陽亢により、肝風を引き起こし、痰を伴って脈絡に入り、脈絡が不暢(ふちょう)となる
痰熱腑実、風痰上擾湿があつまって痰となり、痰が鬱して熱と化し、内風が痰を挟んで経絡を上擾する
中臓腑閉証
脱証正気虚脱
後遺症半身不随
言語不利

後遺症では「痰熱腑実、風痰上擾」が起こります。

症状としては、突然の半身不随、半身麻木(あさぎ、しびれ)、顔面麻痺、便秘、頭暈、羞明、耳鳴り、痰が多く出ます。

湿があつまって痰となり、痰が鬱して熱と化し、内風が痰を挟んで経絡を上擾すると、半身不随、半身麻木(あさぎ、しびれ)、顔面麻痺、頭暈、痰となります。下方では腑気が通じなくなって便秘となります。

また「肝腎陰虚、風痰上擾」も同様の症状を起こします。

❐治法は化痰通腑、方剤は星蔞(ろう)承気湯

胆南星10、全瓜蔞(かろ)15、生大黄10、芒硝6

胆南星(清化熱痰薬)と全瓜蔞(天花粉、栝楼根、瓜呂根は清熱瀉火薬)は痰熱を清火し、生大黄と芒硝は通腑導滞する。

大便が通暢すればある程度好転する。生大黄と芒硝は正を損傷するので過量の使用はよくない。

腑気が通じた後も、清化痰熱、活血通路の胆南星、全瓜蔞、丹参(活血化瘀、清熱)、赤芍(清熱涼血、活血化瘀)、鶏血藤(活血化瘀、通絡)を用いる必要がある。

頭暈の強い場合は、釣藤、菊花(辛涼解表薬、平肝)、珍珠母(重鎮安神、清肝)を用いる。

舌質が赤く、煩躁不安し、一晩中不眠のものは育陰安神の生地黄、沙参(滋陰)、麦門冬、玄参、茯苓、夜交藤を用いるが、さらに湿を増やし、痰熱の排除を妨げる恐れがあるので少量使う。

❐「肝腎陰虚、風痰上擾」には鎮肝熄風湯加減を用いる。

鎮肝熄風湯:懐山薬・代赭石(30)、生牡蛎・生竜骨・生亀板・白芍・玄参・天門冬(15)、川楝子・生麦芽・茵陳蒿(9)、甘草6。

代赭石(たいしゃせき、平肝熄風)、川楝子(せんれんし、行気、疏肝)、麦芽(ばくが、消導、舒肝じょかん)、茵陳蒿(いんちんこう、利水滲湿)

■肢体系病証の痿証の5つの証候

肺熱津傷温熱邪毒を感受して、肺熱葉焦となり、津液を配分して五臓を潤わすことが出来ない
肝腎虧虚体虚で病が久しいと、陰精気血が虧損して、肝腎が傷つけられ、筋骨経脈の営養が出来ない
脾胃損傷病などによって脾虚になると、脾胃の受納運化の機能を失い、気血の生化の源が不足する
湿熱侵淫湿邪を感受して、それが溜まって去らず鬱して熱を生じ、経脈に侵淫して、筋脈が弛緩する
瘀阻脈絡瘀血によって、血液が瘀阻して流れが悪くなると、四肢が運養を失う

肺が熱を受けて徐々に水分を失い、脾は湿邪に侵されて水湿が溢れ、その結果として上方が枯れ、下方が湿(しめ)る。

この中で後遺症では「湿熱侵淫」、「瘀阻脈絡」が起こります。

「湿熱侵淫」

次第に身体に力が入らなくなります。特に下肢。麻木、頑痒も見られる。身体が重く、胸悶あり。触ると微熱が感じられ、涼を好み、熱を嫌がります。

❐治法は清熱化湿、方剤は加味二妙散

当帰、防已、萆薢(ひかい)、蒼朮、黄柏、午膝、亀板(各10)

黄柏は清熱、蒼朮(祛湿、燥湿)は燥湿、秦艽(じんぎょう、祛湿、退熱)・午膝(活血化瘀)・防已(利水、清熱、祛湿、通絡)・萆薢(利水滲湿)は湿熱を導いて下行させる。

湿証が甚だしい場合は、黄耆(補気、補脾、補肝、利水)、茯苓、沢瀉を加える。

湿熱が陰を傷つけると、両足に奇熱、形肉が痩せて、心煩し、舌の縁と先が紅く、舌苔が剥げて無苔、脈が細脈となる。(肢端紅痛症)

この場合は清熱生津のために上の処方に、薏苡仁(利水、清熱)・山薬・沙参(滋陰)・天花粉(清熱瀉火)・麦門冬を加える。または神亀滋陰丸を用いる。

さらに両足に奇熱があって、耐え難い場合は虎潜丸加減を用いる。

神亀滋陰丸:亀板60、知母・炒黄柏(各30)、鎖陽・枸杞子・五味子(15)、炮姜(ほうきょう)6、1回9g。

虎潜丸:黄柏250、亀板120、陳皮・知母・熟地黄・白芍(各60)、鎖陽45、灸虎骨60、乾姜15。1回9g、1日2回。

鎖陽(さよう、助陽)、虎骨(ここつ、祛湿)

「瘀阻脈絡」

四肢の麻痺に加えて、手足が麻木不仁(しびれて感覚がない)、唇舌が紫色。身体の痛みが出現する。

❐治法は益気養営、活血行瘀で、方剤は聖癒湯加味

当帰9、川芎6、熟地黄12、人参9、黄耆12

方中の四物湯(当帰、川芎、白勺、熟地黄)は、調肝、養血の作用をする。

人参、黄耆は益気、桃仁、紅花(こうか)、牛膝を加えて活血行瘀する。

手足が麻木、舌が萎縮していれば、去 白芍 加 赤芍(活血祛瘀)、穿山甲(せんざんこう、活血化瘀)、三七(止血)、橘絡(通絡化痰)、木通(利水滲湿、宣通血脈)。

慢性化した重症例には、大黄䗪(しゃ)虫丸

大黄、黄芩、甘草、桃仁(破血)、杏仁(止咳平喘)、虻(ぼう)虫(破血逐瘀)、蠐螬(せいそう、破血、すくもむし)、芍薬、乾地黄、乾漆(かんしつ、活血化瘀)、水蛭、䗪虫(破血)

痺証の鑑別疾患である「ヒステリー性麻痺」には甘麦大棗湯を用いる。

甘麦大棗湯:小麦18、甘草9、大棗6