疲労の中医学的治法
中医学では疲労、全身倦怠感(虚労)の原因として三因(体質素因、生活素因、疾病素因)があり、その疾病素因の中に「不適切な治療」として医薬による副作用によって虚労が起こるとされています。
虚労の弁証としては、気虚、血虚、陰虚、陽虚の4つの虚証となります。他には、実証の虚労として気滞、湿熱、寒湿があります。
ワクチン後遺症による虚労は、ワクチンという外邪によって二次的に虚証となります。ワクチン成分の残存が本であり、虚労は標ですが、虚が甚だしい場合は、まず虚を補い、次に本治を行います。
虚労が緩やかな場合は、標本同治か先に本治を行います。総じて、先後を決めて治療することが大事です。
この虚証が五臓(心、肝、脾、肺、腎)すべてに起こってきますが、優先順位としては、脾が最も重要です。脾の健運作用を蘇らせて、水穀の精緻を絶えず化生させれば、陰陽気血は次第に回復していきます。
心気虚 | 心の主血↓→心悸、短気、結代、顔面蒼白、乏力、心気虚が長引く→血行が遅緩→気虚血瘀 | |
動悸、息切れ、自汗、顔面蒼白、乏力、舌淡苔白 | 養心湯 | |
心陽虚 | 動悸、息切れ、自汗、舌淡苔白、冷え症、心痛が長く激しい | 桂枝人参湯 |
心陽虚脱 | 心陽虚の重症化、大汗、呼吸微弱、昏迷 | 参附湯合生脈散 |
心血虚 | 動悸、心煩、易驚、健忘、不眠、多夢、頭暈、顔面蒼白 | 帰脾湯加阿膠、鶏血藤、地黄 |
心陰虚 | 動悸、心煩、易驚、健忘、不眠、多夢、口舌に瘡、部分的熱症状 | 天王補心丹 |
気陰両虚 | 炙甘草湯加黄耆、五味子 |
養心湯:黄耆、茯神、茯苓、半夏、当帰、酸棗仁、肉桂、柏子仁、遠志、五味子、川芎、人参、炙甘草
桂枝人参湯:桂枝、人参、乾姜、甘草、白朮
参附湯:人参、附子
生脈散:人参、麦門冬、五味子
帰脾湯:酸棗仁、茯苓、人参、黄耆、当帰、竜眼肉、白朮、大棗、遠志、木香、甘草、生姜
天王補心丹:生地黄、人参、酸棗仁、当帰、 天門冬、麦門冬、柏子仁、遠志、丹参、玄参、五味子、桔梗、茯苓、朱紗
炙甘草湯:炙甘草、生姜、桂枝、生地黄、人参、阿膠(あきょう、養血・滋陰)、麦門冬、火麻仁(ひまにん、滋陰)、大棗
脾気虚 | 中気が不足→脾の運化・統血が失調→胃腸症状、脾が肌肉(きにく)を司る→乏力 | |
食欲不振、少気、泥状便、乏力 | 参苓白朮散 | |
+脾が統血出来ない→出血 | 帰脾湯 | |
+大便に潜血 | 加 烏賊骨、阿膠、白芨(びゃくきゅう、止血) | |
+血崩 | 加 阿膠、生地黄、地楡 | |
+激しい症状 | 独参湯 | |
+皮下に瘀斑 | 加 大棗、山薬 | |
気虚発熱 | 補中益気湯去当帰加大棗生姜 | |
気陰両虚発熱 | 加 麦門冬、玉竹、石斛(せっこく) | |
熱証が強い | 加 青蒿、鼈甲、または補脾胃瀉陰火昇陽湯 | |
脾陽虚 | 陽虚は気虚の甚(じん)、陽虚=気虚+寒証、陽虚発熱 | |
食欲不振、冷え症、喜按喜温、消化不良性下痢(泄瀉) | 附子理中湯 | |
+胃寒による嘔吐 | 加 縮砂、半夏 | |
+気滞による腹中脹満 | 加 枳実、厚朴 | |
+虚寒で腸熱で下痢 | 去 附子、加 黄連、烏梅 |
参苓白朮散:蓮子肉(れんしにく、収渋薬、健脾)、薏苡仁、縮砂(しゅくしゃ、行気薬)、桔梗、白扁豆(びゃくへんず、祛暑、健脾化湿)、茯苓、人参、甘草、白朮、山薬
帰脾湯:酸棗仁、茯苓、人参、黄耆、当帰、竜眼肉、白朮、大棗、遠志、木香、甘草、生姜
独参湯:人参30
補中益気湯:黄耆、炙甘草、人参、当帰、陳皮、升麻、柴胡、白朮
補脾胃瀉陰火昇陽湯:柴胡、炙甘草、黄耆、蒼朮、羌活、升麻、人参、黄芩、黄連、石膏
附子理中湯:人参、乾姜、甘草、白朮、附子
脾陰虚 | 食欲不振、口唇の乾燥、大便燥結 | 参苓白朮散加減 |
+気虚(少気、乏力) | 生晒参(さいじん)、黄耆 | |
+胃陰不足(口渇咽乾、よく水を飲む、舌乾少津) | 沙参(滋陰薬)、玉竹(滋陰薬)、麦門冬、天花粉(清熱瀉下、養胃生津) | |
+陰虚内熱(身熱、心煩、手足心熱) | 胡黄連(清退虚熱)、地骨皮(じこっぴ、清退虚熱)、知母 | |
+気滞(食後の膨満) | 鶏内金(けいないきん、消導薬)、萊菔子(らいふくし、消導薬)、神麹(しんきく、消導薬) | |
+大便燥結 | 麻子仁(ましにん、潤下薬)、肉蓯蓉(にくじゅよう、助陽薬、潤便) | |
+血虚(顔面唇淡白、舌淡、脈虚弱) | 当帰、生地黄、何首烏、鶏血藤 | |
+心脾血虚証(動悸、不眠、多夢、健忘) | 帰脾湯(黄耆、酸棗仁、人参、白朮、茯苓、竜眼肉、遠志、大棗、当帰、甘草、生姜、木香) |
参苓白朮散加減:去 縮砂、陳皮、加 石斛(せっこく、滋陰)、芡実(けんじつ、収渋)、穀芽(こくが、消導薬、健脾)、党参(とうじん、補気)を太子参(補気)
肝血虚 | 眩暈、視力低下、不眠、多夢、月経量減少または閉経 | 四物湯加何首烏阿膠鶏血藤 |
肝陰虚 | 眩暈、羞明、頭痛、心煩、耳鳴 | 補肝湯 |
肝気虚と肝陽虚 | 脇肋(季肋部辺縁)張痛、鼠(さん)痛無定所、うつ、冷え症 | 暖肝煎加細辛黄耆人参 |
四物湯:熟地黄、芍薬、当帰、川芎
補肝湯:白芍、当帰、熟地黄、灸甘草、川芎、木爪(もっか、祛風湿)、酸棗仁
暖肝煎:当帰、枸杞子(くこし、滋陰)、沈香(じんこう、行気)、肉桂、鳥薬、小茴香(しょうういきょう、散寒薬)、茯苓、生姜
この中で最も重要なのは、肝陰虚です。
肝陰虚が甚だしい | 加 枸杞子、桑椹子(そうじんし、養血、生津)、女貞子、玉竹、沙苑子(さえんし、助陽) | |
虚陽上亢 | 頭面が灼熱、まぶたが乾燥 | 杞菊地黄湯 |
肝風内動 | はげしい眩暈、頭痛、肢体麻木、震顫(しんせん)、煩熱上衝 | 鎮肝熄風湯 |
肝陽上亢 | めまい、耳鳴、不眠、多夢、動悸、健忘 | 菊花、天麻、石決明、釣藤鈎 |
肝腎陰虚 | 腰膝のだるさ、遺精 | 河車大造丸 |
杞菊地黄湯:枸杞子、菊花(きっか)、熟地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、牡丹皮、茯苓
鎮肝熄風湯:懐山薬、代赭石(たいしゃせき、平肝熄風)、竜骨、牡蛎、亀板、白芍、玄参、天門冬、川楝子(せんれんし、行気)、茵蔯(いんちん、利水)、麦芽、甘草
河車大造丸:紫河車(しかしゃ、助陽)、亀板、黄柏、杜仲、牛膝、天門冬、麦門冬、熟地黄、茯苓
肺気虚 | 肺気が不足→宣粛が失調→気短、咳嗽、血の運行↓→顔面蒼白 | |
顔面蒼白、動くと息切れ、自汗 | 補肺湯 | |
肺脾気虚 | (肺気虚が脾に及ぶ)肺気虚+納少、腹脹、便溏、浮腫 | 六君子湯 加 黄耆 |
腎不納気 | (肺気虚が腎に及ぶ)肺気虚+消痩、小便失禁、咳して汗が出る | 人参蛤蚧(ごうかい)散合人参胡桃湯 |
肺陰虚 | 乾咳、痰少なく年長、部分的熱症状 | 百合固金湯 |
肺腎陰虚 | 肺陰虚+腰膝酸軟、消痩、遺精滑精 | 八仙長寿丸 |
補肺湯:人参、黄耆、熟地黄、五味子、紫菀(しおん、止咳平喘)、桑白皮
六君子湯:白朮、茯苓、人参、半夏、陳皮、大棗、生姜、甘草
人参蛤蚧散:人参、蛤蚧、炙甘草、杏仁、茯苓、貝母、桑白皮、知母
人参胡桃湯:人参、胡桃(助陽)、生姜
百合固金湯:生地黄、熟地黄、百合(びゃくごう、滋陰)、麦門冬、貝母、当帰、白芍、甘草、玄参、桔梗
八仙長寿丸:地黄、山薬、山茱萸、茯苓、沢瀉、牡丹皮、麦門冬、五味子
腎気虚と腎陽虚 | 冷え症、顔面蒼白、頭暈、耳鳴、下痢、浮腫 | 右帰飲 |
腎陽不振 | 右帰丸 加 人参 | |
陽虚水腫 | +水腫、尿少 | 済生腎気丸 |
腎陰虚と腎精虧 | 頭暈、耳鳴、腰膝酸軟、部分的熱症状 | 河車大造丸 |
心腎不交 | 動悸、不眠、多夢、健忘、部分的熱症状 | 首鳥阿膠湯 |
右帰飲:熟地黄、枸杞子、山茱萸、杜仲、炙甘草、肉桂、附子
右帰丸:熟地黄、山薬、枸杞子、山茱萸、菟絲子、鹿角膠、杜仲、当帰、肉桂、附子
済生腎気丸:熟地黄、沢瀉、山茱萸、牡丹皮、附子、白茯苓、茯苓、山薬、車前子、桂枝、牛膝
河車大造丸:河車、亀板、黄柏、杜仲、牛膝、天門冬、麦門冬、熟地黄、茯苓
首鳥阿膠湯:何首烏、阿膠、辰砂(しんしゃ、安神)、縮砂、遠志、生地黄、竜歯、丹参、磁石(じせき、安神)、牡蠣、辰燈芯