感冒の中医治療

西洋医学での上気道感染や、インフルエンザなどのウイルス感染症、いわゆるかぜ症候群は、中医学では感冒と言います。

感冒は、表証(鼻水、くしゃみ、頭痛、悪風寒、咽頭痛、節痛)が主症状で、7日以内に軽快するもので伝変は少ない。

症状が一週間を超えて伝変して内傷(咳嗽、膿耳、鼻淵、喉痺、哮喘)が出れば、それぞれの弁病として治療を行う。

実証症状治法
風寒感冒鼻炎症状、悪寒>発熱、無汗舌苔薄白、脈浮数(発熱時)、沈数(悪寒時)軽症には葱鼓湯(そうしとう)
葱白(そうはく、辛温解表)、豆鼓(とうし、辛涼解表)
肢体痠痛のある場合、荊防敗毒散荊芥、防風、羌活(辛温解表)、独活(祛風湿)、前胡5(止咳平喘)、柴胡、桔梗、枳殻(きこく、行気)、茯苓、川芎、甘草
悪寒が強い加 桂枝、附子
鼻塞が重い加 蒼耳子
湿を挟む場合(湿邪がある、雨に濡れる、頭冒感、肢体酸重)羌活勝湿湯羌活、独活、藳本(こうほん、辛温解表)、防風、炙甘草、川芎蔓荊子(辛涼解表)
脾運不健の体質で内湿が偏重して風寒の邪に罹りやすい加 蒼朮、厚朴、半夏、陳皮
風熱感冒発熱>悪寒、自汗舌苔薄黄、脈滑数銀翹散金銀花、連翹、桔梗、薄荷(辛涼解表)、牛蒡子、竹葉(清熱瀉火)、荊芥穂(すい)、豆豉、生甘草
桑菊飲(軽症に使う)桑葉(そうよう、辛涼解表)、菊花、杏仁、桔梗、蘆根(ろこん、清熱瀉火)、連翹、薄荷、甘草
湿温病(軽症)湿困中焦(上腹部の痞悶、腹部の膨満感、納少、便溏)の症状>肺系の症状舌苔白から黄膩、脈漏三仁湯杏仁、薏苡仁、白豆蔲、厚朴、半夏、通草、滑石、竹葉
虚火喉痺もともと血虚、陰虚、慢性的な咽痛、イガイガ、発熱舌質紅、舌苔少、脈細数肺陰虚に甘露飲生地黄、熟地黄、天門冬、麦門冬、石斛、茵陳蒿、黄芩、枳穀、枇杷葉、甘草
腎陰虚に知柏地黄丸熟地黄、山茱萸、山薬、茯苓、沢瀉、知母、黄柏、牡丹皮
秋燥秋燥は秋に燥邪によって、主に肺に症状をあらわす外寒疾病です。秋の感冒、急性気管支炎などです。
暑邪夏風邪は湿邪+熱邪舌苔黃膩
湿邪<熱邪、暑熱薫蒸(くんじょう)、熱が下がらない舌苔黃膩、脈濡数新加香薷飲(しんかこうじゅいん)香薷(こうじゅ、祛暑)、厚朴(行気、祛風湿、化痰)、連翹、金銀花、鮮扁豆花(へんずか、祛暑)
湿邪>熱邪、暑湿偏重、頭冒感、胸悶舌苔白膩、脈濡滑藿香正気散大腹皮、白朮、半夏、茯苓、厚朴、陳皮、桔梗、白芷(びゃくし)、蘇葉(そよう、辛温解表、紫蘇)、藿香、大棗、生姜、甘草
燥邪を挟む場合桑杏湯(そうきょうとう)桑葉、杏仁、沙参、貝母、豆鼓、山梔子、梨皮
表寒裏熱もともと熱証または裏熱の人が風寒の邪を受ける、発熱悪寒の風寒表証+咽痛、痰粘調の裏熱証、「寒が火をつつむ」(裏熱=肺熱と肺の痰熱)舌尖辺紅、舌苔薄白または薄黃、脈浮数麻杏甘石湯 加 羌活 魚腥草(ぎょせいそう)麻杏甘石湯:麻黄、杏仁(止咳平喘)、炙甘草、石膏
外寒が強く、悪寒、骨節疼痛加 板藍根、黄芩
表裏実熱大便秘結、身熱引かず、舌苔膩、脈滑実数防風通聖散防風、黄芩、芍薬、大黄、芒硝、麻黄、石膏、白朮、荊芥、連翹、桔梗、山梔子、芍薬、当帰、川芎、薄荷、滑石、甘草
その他寒・熱がはっきりしない、鼻水、咽痛、痰なし、咳と頭痛だけ有る三拗(よう)湯 加 牛蒡子、貝母、橘紅(きっこう、止咳)三拗湯:麻黄、杏仁、炙甘草
+喉頭痛が強いとき加 胖大海(清火熱痰、清肺熱)
+風邪が強いとき加 祛風薬(薄荷、荊芥、防風)
虚証
気虚感冒もともと気虚、悪寒>発熱舌苔白、脈浮無力参蘇飲 加 祛風解表薬参蘇飲:人参、紫蘇葉、葛根、半夏、前胡、茯苓、木香(もっこう、行気)、桔梗、炙甘草、陳皮、生姜、大棗
黄耆桂枝五物湯黄耆、芍薬、桂枝、生姜、大棗
陽虚感冒もともと陽虚、甚だしい悪寒舌湿淡胖、舌苔白、脈沈無力細再造散再造散:桂枝湯(桂枝3、白芍3、甘草3、大棗3、羌活2.5)、黃耆3、人參3、附子1.5、細辛1.5、防風2.5、川芎2.5、煨薑3(わいきょう、辛温解表、煨姜)
桂枝加附子湯桂枝、芍薬、炙甘草、生姜、大棗、炮附子
血虚感冒もともと血虚、頭痛、頻度は少ない舌淡、舌苔白、脈細か不、無力または結代葱白七味飲加減葱白七味飲:葱白(そうはく、辛温解表)、葛根、麦門冬、乾地黄、豆鼓、生姜
陰虚感冒もともと陰虚、発熱>悪寒舌湿紅、脈細数銀翹散 加 玄参、乾地黄、麦門冬金銀花30、連翹30、桔梗18、薄荷18(はっか、辛涼解表)、竹葉12(清熱瀉火)、荊芥穂12(すい)、豆豉15、生甘草15
加減葳蕤(いずい)湯 加 疏散風熱薬 肺系の清熱解毒 玄参 麦門冬加減葳蕤(いずい)湯:葳蕤(滋陰、玉竹ぎょくちく)、葱白(そうはく、辛温解表)、桔梗、薄荷、白薇(びゃくび、清退虚熱)、豆鼓(とうし、辛涼解表)、炙甘草、大棗

悪寒は、寒邪による表証による主に背部で寒さを感じる自覚症状を指します。外邪を感受して、衛気が阻まれ、身体を保護する衛気の機能が失調して起こります。畏寒(いかん)は、暖房器具で寒さが軽減する寒気で陽虚によるもので、悪寒は暖房器具でも寒さが軽減しない寒邪によるものです。悪風は、風に当たると寒気を感じるものです。

咽頭痛に有効な(利咽)生薬は、辛温解表の荊芥、辛涼解表の薄荷牛蒡子升麻蝉退、清熱燥湿の黄連竜胆、清熱解毒薬の金銀花、忍藤冬、連翹、☆山豆根(さんずこん)、☆射干、大青葉、板藍根、馬勃、蚕休、瀉下剤の大黄、清化熱痰の☆胖大海、化痰止咳薬の桔梗(排膿消腫)、補気の生甘草、滋陰薬の玄参、平肝熄風の☆白僵蚕、外用薬の青黛。

咽頭痛は、肺陰虚が併発していることが多いので、肺陰を滋陰する浜防風、天門冬、麦門冬、百合を合わせて使います。肺陰虚の原因として腎陰虚があることが多く、生地黄、玄参を加えます。

感冒は7日以内に軽快するものが多いですが、感冒より勢いの強い感染症(外感病)であり症状が進行して変化するもの(伝変)で、寒邪(悪寒が主訴)によるものを傷寒、温熱の邪(発熱、暑がる、口渇が主訴)によるものを温病と呼びます。日本の外来診療では傷寒や温病はほとんど存在せず、感冒の伝変がほんとんどで、時に湿温病が見られる程度です。チフス、赤痢、コレラなど細菌感染やインフルエンザは傷寒、麻疹、風疹、水痘、EBウイルス、ヘルペスウイルスは温病に当たります。抗生物質の登場により現代は、主に細菌感染症の傷寒ではなく、ウイルス感染症の温病がより重要になっています。(2020, 高橋)