新型コロナ感染症の治療薬の問題
新型コロナ感染症の治療薬は、イベルメクチンを排除する形で次々と新薬が出てきましたが、問題が多いようです。
岡田正彦先生に許可を頂いて、いつも素晴らしい情報発信をされている「新型コロナのエビデンス」の内容を転載させて頂きます。
ゾコーバの疑惑
国産初の新型コロナウイルス感染症の飲み薬がエンシトレルビル(商品名ゾコーバ)です。2022年11月22日、厚生労働省は、この薬を緊急承認したと発表しました。緊急承認とは、通常の制度から外れて、期限と条件つきで認めるものです。テレビのニュースでも大々的に取り上げられたことから、コロナに感染した患者さんが「処方してほしい」と求めることも多くなっています。
国の審査報告書によれば、この薬を服用した人は、5つの症状が回復するまでの時間が、プラセボに比べて24時間ほど早かったとのことです(文献1)。5つの症状とは「倦怠感または疲労感」、「熱っぽさまたは発熱」、「鼻水または鼻づまり」、「喉の痛み」、それに「咳」です。しかし報告書をよく見ると、統計学的な有意差にはなっていませんでした。
ゾコーバの治験データを報じた英文論文は、3つあります(文献2~4)。しかし、対象者の人数が、国の審査報告書に記載されていた値を大幅に下回っていて、都合の良いデータを報告しただけのものでした。それにもかかわらず、その1つには「症状の回復には有意差がなく、ウイルス量が少しだけ減少していた」と記載されていました。
このことが、あとでゴタゴタを引き起こすことになります。2022年9月2日、日本感染症学会と日本化学療法学会という2つの学会が、連名でゾコーバ錠の早期承認を求める提言書を厚生労働大臣に提出しました(文献5)。そこには「ウイルス量が早く減少することは、臨床症状の改善を早めます」と書いてありました。
この文章が公表された9月2日の時点で、上述した3つの論文はまだ公表されていませんでした。つまり、製薬会社とその協力者しか知らないはずの企業秘密を、提言書を執筆した人たちは事前に知っていたことになります。つまり企業側からみれば秘密漏えい、国民に対しては利益相反があったのです。この文章に対して、ネット上で非難が殺到したのは言うまでもありません。
日本政府がもっとも力を入れているのがこの薬で、すでに200万人分を製薬会社に発注したと報じられています。しかし効果は証明されておらず、かつ長期的な副作用が不明なのです。
パクソロビドの醜聞
新型コロナウイルスがヒトの細胞内で増殖する際、自分自身の複製を作るための酵素が必要です。実は、この酵素はウイルス自身が持っているのですが、その酵素をブロックする飲み薬が2つあります。ひとつが前述したゾコーバで、もうひとつがファイザー社のパクソロビドです。
2022年6月14日、ファイザー社は「この薬は効果が余りにも高く、あきらかな副作用もなく、このままランダム化比較試験を続けるのはしのびなく、試験を中止することにした」との文章を誇らしげに発表しました。これは、薬の臨床試験を途中で打ち切るときに語られる定番のセリフですが、追跡調査を長く続けるとボロが出ることがわかっているときに使われます。
この薬には、多数の懸念が指摘されています。酵素をブロックする薬ですから、ヒトが体内に持っている「薬物を分解する酵素」まで止めてしまいます。そのため、一緒に服用してはいけない薬が降圧剤など無数にあり、うっかり他の薬といっしょに飲むと、命にかかわる事態も起きかねません。しかも臨床試験では、なぜかコロナワクチンを接種していない人たちだけが対象でしたから、接種した人たちが飲んで大丈夫なのかという懸念もあります。
ランダム化比較試験のデータから、パクソロビドは重症化または死亡のリスクを89パーセント低減させると計算され、その値が宣伝に利用されています(文献6)。この信じがたいほど高い値が本当なのか、検証が必要です。
2022年4月に発表された論文は、約2,000人を対象にしたランダム化比較試験の結果を報じたもので、以下がそのデータです。
パクソロビド服用群 プラセボ服用群
総 数 389人 385人
重症化または死亡 3人 27人
このデータから以下の計算を行ったようです。
(1 - (3 / 389) ÷ (27 / 385)) ×100 = 89.0 (%)
ところが、ファイザー社とは関わりがないカナダの研究者グループが2023年10月2日に発表した論文には、まったく異なる結果が示されていました(文献7)。7千人ほどの人たちをさまざまな年代、男女、体質などにわけて調べたところ、効果にばらつきが大きく、あるグループでは効果があり、別のグループでは効果なしという結果だったのです。ちなみに、ほとんどの対象者はコロナワクチンを打っていました。
このように、調査ごとに矛盾した結果になる場合、「最終的に無効だった」という決着になるのは、歴史が教えてくれるところです。
半年後、ファイザー社は治験の最終論文を発表しましたが、著者欄に記載された10人はすべて同社の社員でした(文献8)。
危ない飲み薬、ラゲブリオ
2021年12月24日、モルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)が国内で認可されました。年が明けると、国は大々的にこの薬のPRを始め、連日、テレビでその名が連呼されるようになりました。当時、この薬は国が買い上げていて、医療機関が申請すれば無償で配布されるという形になっていました。
ちょうど、そのころ、国内では感染者数が爆発的に増え始めていました。私が勤務していた高齢者施設でも、感染が急速に広がっていたのですが、感染した高齢者の家族から「感染したのはお前の管理が悪いからだ。テレビで宣伝している、あの特効薬をすぐ使え!」とのきつい言葉が私に向けられました。
コロナ感染を見落とした医師が告訴されるというニュースも重なり、私も何人かの高齢者に、この薬を処方せざるをえない状況になりました。この薬は飲んでも飲まなくても、症状に差はないというのが当時の印象でしたが、処方をしてしまったことについては、いまも懺悔の日々です。
なぜなのか? それは、この薬が新型コロナウイルスの遺伝子配列を組み換えてしまい、深刻な問題を引き起こすからです。大げさに言えば、人類の存亡にかかわるリスクが2つあることがわかっているのです。
まずラゲブリオの働きを見ておきましょう。新型コロナウイルスの遺伝子はRNAでできており、
アデニン
グアニン
シトシン
ウラシル
と呼ばれる4つの物質が遺伝情報を記録しています。ラゲブリオは、そのうちのシトシンとウラシルに似た形をしている物質です(文献9)。正確に言えば似て非なるものです。ウイルスは、自身の複製を作る際、ヒトの細胞内に存在する4つの物質を勝手に流用するのですが、シトシンとウラシルの代わりにラゲブリオを組み込んでしまうことになります。
ところが、この物質はシトシンとウラシルの両方に似ているため、ウイルスが複製を作る際、区別がつきません。そのため遺伝情報としての役割が破たんしてしまい、ウイルスは生き残ることができなくなる・・・、というストーリーなのです。
そのために起こる危機のひとつは、ウイルスのRNAが改変されるだけでなく、ホストのDNAにも組込まれてしまうことです(文献10)。もうひとつは、ラゲブリオで変異を遂げたまま、死滅せずに生き残った一部のコロナウイルスが、体外に飛びだし他人に感染してしまったことです(文献11, 12)。
まとめ
新型コロナ感染症で安心して飲める薬は、ひとつもありません。インフルエンザよりも弱毒化しているオミクロン株に対しては、普通の風邪薬に勝るものなし!
重症化する割合でいえば、オミクロンよりインフルエンザのほうが高いのですが、特効薬とされてきたタミフルも、データのねつ造があり、実はほとんど効き目のない薬だったことが判明しています。米国政府機関のホームページには、昔から、次のようなメッセージが国民向けに掲示されています。「インフルエンザに特別な治療は不要。家で休養すること、他人に移さないように!」と、・・・コロナも同じです。
【参考文献】
1) ゾコーバ錠125mg_塩野義製薬株式会社_審査報告書(3). Nov 15, 2022.
2) Mukae H, et al., A randomized phase 2/3 study of ensitrelvir, a novel oral SARS-CoV-2 3C-like protease inhibitor, in Japaneses patients with mild-to-modrarete COVID-19 or asymptomatic SARS-CoV-2 infection: results of the phase 2a part. Antimicrob Agents Chemother, Sep 13, 2022.
3) Mukae H, et al., Efficacy and safety of ensitrelvir in patients with mild-to-moderate coronavirus disease 2019: the phase 2b part of a randomized, placebo-controlled, phase 2/3 study. Clin Infect Dis, Dec 7, 2022.
4) Yotsuyanagi H, et al., A phase 2/3 study of S-217622 in participants with SARS-CoV-2 infection (phase 3 part). Medicine, Feb 22, 2023.
5) 四柳宏, 松本哲哉, 「新型コロナウイルス感染症における喫緊の課題と解決策に関する提言」. Sep 2, 2022.
6) Pfizer's novel COVID-19 oral antiviral treatment candidate reduced risk of hospitalization or death by 89% in interim analysis of phase 2/3 EPIC-HR study, Pfizer, Nov 5, 2021.
7) Dormuth CR, et al., Nirmatrelvir-ritonavir and COVID-19 mortality and hospitalization among patients with vulnerability to COVID-19 complications. JAMA Netw Open, Oct 2, 2023.
8) Hammond J, et al., Oral nirmatrelvir for high-risk, nonhospitalized adults with Covid-19. N Engl J Med, Apr 14, 2022.
9) Kabinger F, et al., Mechanism of molnupiravir-induced SARS-CoV-2 mutagenesis. Nat Struct, Sep, 2021.
10) Muwller B, Merk's Covid pill might pose risks for pregnant women. New York Times, Dec 13, 2021.
11) Sanderson T, et al., A molnupiravir-associated mutational signature in global SARS-CoV-2 genomes. Nature, Sep 25, 2023.
12) Harris E, Changes in SARS-CoV-2 sequence linked with antiviral use. JAMA, Oct 4, 2023
■薬害オンブズパースン会議は、「ラゲブリオ(モルヌピラビル)の使用一時中止を求める要望書」を提出・公表
薬害オンブズパースン会議は2022年4月5日、厚生労働省およびMSD株式会社に対し「ラゲブリオ(モルヌピラビル)の使用一時中止を求める要望書」を提出しました。
ラゲブリオカプセル200mgは、米国メルク社が開発した新型コロナウイルス感染症治療薬で、MSD株式会社が承認申請し、2021年12月24日、薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会で審議後、即日特例承認されました。
厚生労働省の「経口抗ウイルス薬「ラゲブリオ」の都道府県毎の発注状況について(2022年3月15日時点)」によれば、2022年3月15日現在で191,964人分(医療機関73,811人分、薬局118,153人分)が発注されており、MSD社の市販直後調査によると、2022年3月18日までに推定121,940人に投与されています。
しかし、市販直後調査の結果、販売開始後わずか85日間で9名が死亡していることが明らかになっています。
また、有効性については、中間解析で一定の重症化を防止する効果が認められたものの、最終結果においては効果が減少しており、無効であった可能性も示されています。
そのため、海外でもフランスでは発注が取り消されたと報じられており 、米国のNGOパブリック・シチズンは政府による緊急使用許可に疑義を呈し、BMJ誌には「モルヌピラビルの認可は時期尚早であった」という論説が掲載されています。
さらに、適切な同意取得が可能かという問題や、厚生労働省の審議会において、利益相反のために本来は審議に参加してはならない委員が参加するなどの問題も生じています。