下痢(泄瀉)の中医治療
■要点
1.緩急を弁ず
急性の泄瀉(暴瀉)は、発症が急激で病期も短く、常に湿盛が主である。慢性の泄瀉(久瀉)は、飲食の不適当、ストレスで再発して、脾虚が主である。病期が長引いて腎に及べば、腎虚となり、明け方の泄瀉(五更泄瀉)、腰膝酸軟(腰や膝のだるさ)が出現してきます。
2.軽重を弁ず
一般的に暴瀉は予後が良く食欲が落ちません。久瀉で重証になると食欲が落ちてきます。食欲の有無が軽重のポイントです。
3.寒熱虚実を弁ず
暴瀉は実証、久瀉は虚証です。水溶性下痢で、手足の冷えがあるものは寒証で、臭いのある便で、肛門灼熱、口渇、冷飲を好むものは熱証です。
4.湿が重いものは祛湿を重用し、熱が重いものは清熱し、暑を挟むものは清暑祛湿し、滞を挟むものは消食導滞する。
■証候と方剤
暴瀉 | 症状 | 方剤 |
寒湿泄瀉 | 水溶性下痢、手足の冷え | 軽症は平胃散、重症は胃苓湯、風寒表証は藿香正気散 |
温熱泄瀉 | 臭いのある便で、肛門灼熱、口渇、冷飲を好む | 葛根芩連湯加減、新加香薷飲(しんかこうじゅいん)合六一散 |
傷食泄瀉 | 腐卵のような臭い、便に未消化物が混じる | 保和丸 |
久瀉 | ||
肝気乗脾 | ストレス、感情による腹痛・下痢、排便後は軽快 | 痛瀉要方 |
脾虚泄瀉、脾気虚 | 食欲低下、大便が泥状、水溶性、脂っこいものを食べると下痢 | 参苓白朮散(脾虚泄瀉の常用方剤) |
+脾陽が虚衰して、陰寒が内盛 | 附子理中湯 | |
+中気下陥、脱肛 | 補中益気湯 | |
腎虚泄瀉、腎陽虚 | 食欲低下、明け方に下痢、腹痛、腰膝酸軟、四肢冷、冷え症 | 理中湯合四神丸 |
水飲留腸 | 日頃から水分多飲、ゴロゴロと腸鳴、水様便、水分を嘔吐 | 苓桂朮甘湯合已椒藶黄丸(いしょうれきおう) |
瘀阻陽絡 | 慢性下痢、刺痛固定痛 | 少腹逐瘀湯 |
中気下陥:脾気下陥、気虚下陥ともいわれる。脾気の正常な昇降が脾気不足から行われない。めまい、目が眩む、小声、息切れ、倦怠、自汗、納少、食べると脹満、脘腹の下垂感、下痢、脱肛、子宮下垂、胃下垂。
平胃散:蒼朮、厚朴、陳皮、甘草
胃苓湯:蒼朮、厚朴、陳皮、甘草、茯苓、白朮、沢瀉、猪苓、生姜、大棗、桂皮
藿香正気散:大腹皮、白朮、半夏、茯苓、厚朴、陳皮、桔梗、白芷(びゃくし)、蘇葉(紫蘇)、藿香、大棗、生姜、甘草
葛根芩連湯:葛根、黄連、黄芩、甘草
新加香薷飲:香薷(こうじゅ、祛暑)、厚朴、連翹、金銀花、扁豆花(へんずか、祛暑)
六一散:滑石(かっせき、利水滲湿)、甘草
痛瀉要方:白朮、白芍、防風、陳皮
保和丸:山楂子(さんざし、消導薬)、神麴(しんきく、消導薬)、半夏、萊服子(らいふくし、消導薬)、茯苓、陳皮、連翹
参苓白朮散:四君子湯(茯苓、人参、甘草、白朮)、蓮子肉(れんしにく、収渋薬、健脾)、薏苡仁、縮砂(しゅくしゃ、行気)、桔梗、白扁豆、山薬
附子理中湯:理中湯(人参、乾姜、炙甘草、白朮)加附子
補中益気湯:黄耆、炙甘草、人参、当帰、陳皮、升麻、柴胡、白朮、生姜、大棗
理中湯:人参、乾姜、炙甘草、白朮
四神丸:補骨脂、呉茱萸、肉荳蔲(にくずく、収渋)、五味子、大棗、生姜
苓桂朮甘湯:茯苓、桂枝、白朮、甘草
已椒藶黄丸:防已、椒目(しょうもく、利水)、葶藶子(消導)、大黄、煉密(れんみつ)
少腹逐瘀湯:小茴香(しょうういきょう、散寒)、乾姜、延胡索、没薬(もつやく、活血化瘀)、当帰、川芎、肉桂、赤芍