抗がん剤や放射線治療は癌の体積は減らせますが、根絶は難しい

白血病細胞の研究から、がん細胞において極一部の細胞のみが自己増殖能力を持つことが報告されました。(1994, Lapidot)

その後、様々な固形がんにおいても、自己複製能力を持つがん幹細胞が存在することが報告されてきました。(2007, Dalerba)

がん幹細胞モデルでは、腫瘍の発生、維持、成長は、がん幹細胞と呼ばれる癌細胞の少数集団によって引き起こされると提案されています。これらのがん幹細胞は継続的に自己複製して異質な癌細胞に分化し、親腫瘍を再現する新しい腫瘍を生み出すが、がん幹細胞以外の癌細胞の大部分は自己複製能力を欠いています。 (2006, Clarke)

がん幹細胞は、上皮間葉転換によって転移に可能にする能力を持っています。すなわち特定の環境刺激の影響下で上皮細胞が間葉系の特徴を獲得する能力を利用して、周辺組織への局所浸潤と遠隔臓器部位への全身性播種を引き起こします。(2012, Sampieri)

がん幹細胞は腫瘍開始細胞としても知られ、自己複製能力とがん細胞の異種系統への分化能力により、薬剤耐性とがん再発の原因であると考えられています。(2018, PHi)

また、現在利用可能な化学療法薬や放射線療法のほとんどは、腫瘍の体積を縮小することはできるものの、がん幹細胞を根絶する能力が欠けています。(2006, Hambardzumyan)(2012, Vinogradov)(2020, Cho)(2021, Marzagalli)

がん幹細胞の性質から、腫瘍の耐性と再発が最終的に発生します。したがって、がん幹細胞集団を標的とすることは、腫瘍を根絶し、耐性と再発を防ぐ治療の最重要ポイントとなります。(2012, Visvader)(2014, Li)

抗がん剤や放射線治療に対して、腫瘍免疫療法の特徴として長期生存例が多いことを考えると,免疫ががん幹細胞根絶の鍵を握っていると考えられます。すなわちがん幹細胞は、自己複製能と多能性という「幹細胞」としての性質に加え、免疫からの攻撃を受けにくいという特性も有した細胞と定義することができます。がん幹細胞のこの防御機構を突破し,腫瘍免疫の力を最大限活用する治療法の開発が、今後の大きな課題と考えられます。(2021, 合山)