ヒートショックプロテイン

まとめ:入浴などで発現するヒートショックプロテインは、深い睡眠、冷え症の改善、変性疾患、癌、老化などに関係しています。

ヒートショックプロテイン(HSP)は、入浴などの熱ストレスで発現してくるタンパク質で、細胞の損傷を防ぐ作用を持っています。

細胞に存在するタンパク質は、様々なストレスによって変性したり、合成過程で問題が生じて機能しなくなることがあります。こうして、異常なタンパク質が蓄積してくると、細胞が機能しなくなってきます。これが、脳の変性疾患であるアルツハイマー病やパーキンソン病などのフォールディング病(フォールディングとは、アミノ酸が連なるタンパク質の立体構造)と呼ばれる疾患の原因です。この異常なタンパク質を、処理していくのがヒートショックプロテインで、合成されるタンパク質の折り畳み構造をサポートしたり、異常なタンパク質を修復したり、分解を促進したりします。異常なタンパク質に、一時的に結合して仕事が終わると離れていくことから、HSPのこの作用は分子シャペロン(機能)と呼ばれます。(シャペロンとは、社交界にデビューする若い貴婦人に付き添っ ていろいろ世話をする年配の婦人のことです)(2014, 伊藤)

HSPは睡眠に関係しており、特に徐波睡眠を長くすることによって、深い睡眠を増やし、中途覚醒を減らす作用があります。(2010, Lapshina)

現代人は、運動不足による骨格筋の収縮による熱産生の低下に伴う「冷え症」が増えている。この冷え症では、体内での酵素活性が下がって蛋白合成などの新陳代謝が低下して、様々な体調不良に繋がります。この冷え症に対して、HSPを増やすことで改善が期待できます。(2014, 伊藤)

HSPは、フォールディング病であるアルツハイマー病(2018, Campanella)、パーキンソン病(2011, Aridon)、ALS(2014, Karmar)に対する保護的作用が報告されています。

HSPは免疫系と深く関係しており、抗原提示および交差提示、マクロファージおよびリンパ球の活性化、樹状細胞の活性化および成熟において重要な役割を果たすことが報告されています。(2009, Tsan)

HSP は、血管新生、細胞増殖、移動、浸潤、転移の調節を介して発癌において重要な役割を果たします。また、HSP はアポトーシスや一部の抗癌剤に対する耐性を媒介します。HSPはすでに、抗癌剤として治療に使われています。(2017, Wu)

HSPは、老化中のタンパク質損傷の抑止に重要な役割を果たしており、長寿と密接に関係しています。(2009, Calderwood)

低温ショックタンパク質は、低温下で発現するタンパク質で、低温ストレスでRNAの二次構造の不安定化を安定させる作用を持つことから、RNAシャペロン活性を持つことが報告されています。(1997, Jiang)