リンパ浮腫の中医治療
リンパ浮腫とは、異常なリンパ循環により"浮腫"をきたす疾患のことです。日本においてはがん治療後の“二次性リンパ浮腫”が多くを占めていますが、世界的には熱帯地域を中心にフィラリア感染によるリンパ浮腫が最も多いです。
がん治療では腫瘍の切除とともにリンパ節郭清や放射線治療が行われますが、リンパ節郭清・放射線照射によりリンパ流がそこで途絶えます。最も多い例が乳がん治療後の二次性上肢リンパ浮腫と、子宮がんなど骨盤内悪性腫瘍(子宮がん、卵巣がん、前立腺がんなど)治療後の二次性下肢リンパ浮腫です。乳がん治療後であれば腋窩部でリンパ流が閉塞し、子宮がん治療後であれば骨盤部でリンパ流が閉塞し、閉塞した部位より末梢(乳がん治療後であれば上肢、子宮がん治療後であれば下肢)のリンパがうっ滞します。
リンパ浮腫ではリンパ流のうっ滞により局所免疫能が低下し感染・炎症を生じやすくなり、蜂窩織炎を生じやすくなります。
リンパ浮腫の主な症状は"むくみ"ですが、原因はリンパ流のうっ滞であり、この原因を改善しないことには生涯をかけて進行し続けるやっかいな病気です。
基本となる治療は保存療法とよばれる非手術療法で、中でも弾性着衣(ストッキング・スリーブなど)による圧迫療法がもっとも重要になります。リンパ浮腫は、一度発症すると治らないとされているため、原則的に生涯にわたり圧迫療法を続けていくこととなります。
リンパファンは、丹参と苦参を主成分とする方剤です。このリンパファンは、リンパ浮腫のモデルマウスの腫れ、炎症、脂質沈着、線維化など、リンパ浮腫によって引き起こされる病理学的変化を阻害します。(2020, Luo)
中国医学には、リンパ浮腫に類似した、またはリンパ浮腫である可能性のある症状の治療の歴史があります。その病態は、痰湿証として龔廷賢(1522-1619)は指摘しています。有効な生薬として、主にセリ科の当帰、防風、羌活を中心に治療しました。その他に、祛風湿薬として厚朴、陳皮、蒼朮、白豆蔲、香附子、木香、燥湿薬として、茯苓、白朮、半夏、生姜、竹茹、天南星を使いました。その他にも痰湿証に対して、沢瀉、人参、枳実、栝楼仁を使いました。(Dharmananda)
ベンゾピロンは、浮腫量やリンパ浮腫のその他の症状を改善できると最も多く報告されている薬剤です。クマリンは、多くの薬用植物によく含まれるベンゾピロン ファミリーに属します。クマリンを含む生薬としては、当帰、羌活、川芎、防風、独活、白芷があります。(2020, Sheikhi-Mobarakeh)