RNAウイルスのワクチンは有効なのか?
まとめ:RNAウイルスに対するワクチンとしては、ポリオワクチン、インフルエンザワクチン、黄熱ワクチン、SARS-CoV-2ワクチンがありますが、理論上の様々な問題があります。
1.高い変異率の問題
RNAウイルスは、RNAポリメラーゼという酵素を使って複製されますが、この酵素はエラー修復機構が弱く、複製時に高頻度で突然変異が起こります。これにより、これまでに有効であった免疫系が認識しにくくなるため、ワクチンの効果が短期間で低下します。変異率が 10^−3 と書かれている場合、これはウイルスが1,000回複製するごとに1回のエラーが発生することを意味します。つまり、1,000個のウイルスの中に1つは遺伝子に変異を持っているということです。
また、DNAウイルスの多くは二本鎖ですが、RNAウイルスは一本鎖のものが多いです。以上からRNAウイルスは高い変異率を持ちます。
変異率が高ければワクチンが出来上がったときには、すでに流行株が変異株となるので、開発されたワクチンが周回遅れになります。
変異率 | |
インフルエンザウイルス | 約 10^−3 ~ 10^−4 |
HIV(ヒト免疫不全ウイルス) | 約 10^−5 ~ 10^−6、HIVは逆転写酵素によってRNAをDNAに逆転写する際にエラーが頻繁に起こり、そのためウイルスの遺伝的多様性が非常に高いです。 |
新型コロナウイルス | 約 10^−4 ~ 10^−5 |
ポリオウイルス | 約 10^−3 |
エボラウイルス | 約 10^−4 ~ 10^−5 |
デングウイルス | 約 10^−4 デングウイルスは、複数の型(1~4型)が存在し、それぞれが変異を繰り返しながら新しい亜型を生じます。 |
ジカウイルス | 約 10^−4 ~ 10^−5 |
黄熱病ウイルス | 約 10^−4 ~ 10^−5 |
一般的なDNAウイルス | 約 10^−8~ 10^−10、DNAポリメラーゼの校正機能、二本鎖DNAの安定性、複製サイクルが遅い |
ヘパドナウイルス(例: B型肝炎ウイルス) | 約 10^−3 ~ 10^−4、逆転写酵素によるエラーが生じやすいので |
2.抗原の多様性
RNAウイルスは複数のサブタイプや株を持ち、それぞれが異なる抗原性を示します。全ての株をカバーするワクチンを開発するのは困難です。
3.抗原原罪の問題
初めての感染で特定の抗原(例: ウイルスのスパイクタンパク質など)に対して免疫系が応答し、B細胞が抗体を産生します。同時に、メモリーB細胞が形成され、その抗原に関する情報を記憶します。再感染時に、似た抗原を持つ病原体に感染すると、初回感染で形成されたメモリーB細胞が優先的に活性化します。そのために、新しい抗原に最適化された抗体を十分に産生できなくなります。
4.IgG4の問題
抗原原罪のように、免疫応答が特定の抗原に偏る状況では、繰り返し曝露されること(頻回のワクチン接種)でIgG4が誘導される場合があります。
IgG4はもともとは、過剰な炎症応答(ここでは免疫応答)を抑制する役割ですが、適正な免疫応答も抑制してしまい、感染しやすくなったり、腫瘍免疫が抑制される場合があります。
5.抗体依存性増強(ADE:Antibody-Dependent Enhancement)
抗原の多様性のために免疫反応が複雑になり、一部の抗体が感染を防ぐどころか、ウイルス感染を促進してしまう現象が起こってきます。
テング熱、新型コロナウイルス、エボラウイルス、HIVでADEを指摘する報告があります。