ワクチン後遺症による関節痛・筋肉痛・しびれ(痺証)の中医治療
新型コロナ後遺症、ワクチン後遺症で関節痛が見られることが知られています。(2022, Cordani)(2021, Pormohammad)
韓国での大規模調査で、新型コロナワクチン接種後に有意に炎症性筋骨格系障害(足底筋膜炎(0.14~0.17%)、腱板症候群(0.29~0.42%)、癒着性関節包炎(0.29~0.47%)、椎間板ヘルニア(0.18~0.23%)、脊椎症(0.14~0.23%)の発生率%)、滑液包炎 (0.02 ~ 0.03%)、アキレス腱炎 (0.0 ~ 0.05%)、ドケルバン腱鞘炎 )が起こることが報告されています。(2023, Park)
中医学では、「関節・筋肉・骨に疼痛、しびれ、運動障害を示す病症を痺証」と呼びます。関節痛だけの意味ではありません。
痺証は、風寒湿邪が侵襲して経絡を阻滞して、気血の流行が不暢となり発症します。風邪が勝ると固定しない遊走性の関節痛・筋肉痛の行痺(風痺)となり、寒邪が勝ると、強い疼痛、冷えなどのある関節痛・筋肉痛の痛痺(寒痺)となり、湿邪が勝ると重だるい固定した関節痛・筋肉痛の着痺(湿痺)となります。風寒湿が化熱して熱痺になると、関節の発赤・腫脹・熱感・疼痛が現れます。
痺証の初期で風寒湿邪が表にある時は解表薬を使い、慢性に経過して筋骨経路に入った時は、活血通絡薬を使い邪の積留を防ぎます。風勝の時は祛風湿薬を、寒盛の時は散寒薬を、湿盛の時は利湿薬を、熱証が強ければ清熱薬を使い、久病体弱で気血不足を伴う場合は補気養血薬を、肝腎不足の時は補肝腎薬を、それぞれ加えます。
祛風湿薬は、傷陰耗血しやすいので、陰虚、血虚には慎重に投与します。
痺証の分類 | |||
風寒湿痺 | 行痺(風痺) | 遊走性の関節痛・筋肉痛 | 蠲痹湯 |
痛痺(寒痺) | 激しく固定した関節痛・筋肉痛、温めると軽減、冷やすと悪化 | 蠲痹湯、鳥頭湯、鳥附麻辛桂姜湯、二妙散 | |
着痺(湿痺) | 重だるい固定した関節痛・筋肉痛 | 蠲痹湯 | |
熱痺 | 赤く灼熱した関節痛・筋肉痛 | 麻杏甘石湯 | |
頑痺 | 経過が長く、変形 | 身痛逐瘀湯 | |
風湿熱痺 | 遊走性の関節痛・筋肉痛+熱、腫れ、発赤 | 白虎加桂枝湯 | |
痰瘀痺阻 | 関節腫大、変形、運動障害 | 桃紅飲 | |
肝腎不足 | 長期化した関節痛・筋肉痛、筋肉の萎縮、運動障害 | 独活寄生湯 |
蠲(けん)痹湯:羌活3、秦艽3、独活3、桑枝9、当帰9、川芎3、灸甘草1.5、桂皮1.5、海風藤6、乳香(活血化瘀)2.5、木香(もっこう)2.5
鳥頭湯:麻黄6、黄耆6、川鳥頭6-9、芍薬6、甘草6
鳥附麻辛桂姜湯:川鳥頭、附子片、麻黄、細辛、桂枝、乾姜、甘草、蜂蜜
二妙散:黄柏9、蒼朮9(「湿熱による筋骨疼痛を治す」、特に下肢)
麻杏甘石湯:麻黄6、杏仁9(止咳平喘)、炙甘草6、石膏18
身痛逐瘀湯:桃仁3、紅花3、当帰3、牛膝3、川芎2、甘草2、没薬(もつやく、活血化瘀)2、五霊脂2、地竜2、羌活1、秦艽(じんぎょう、祛風湿・通絡)1、香附子1
白虎加桂枝湯:知母、炙甘草、石膏、糠米(こうべい、消導薬)、桂枝
桃紅飲:桃仁、紅花、川芎、当帰、威霊仙
独活寄生湯:唐独活(祛風湿)、桑寄生、牛膝、杜仲、細辛、秦艽、党参、茯苓、肉桂、防風、人参、当帰、芍薬、生地黄、白芍、川芎
止痛作用を持つ主な生薬は、祛風湿薬(保険:防已、威霊仙、独活、唐独活、自費:烏梢蛇、除長卿、蒼耳子)、活血化瘀薬(保険:莪朮、延胡索、紅花、川芎、自費:五霊脂、三稜、乳香、没薬、姜黄)、補血(保険:当帰)、平肝熄風(保険:天麻、自費:全蠍)
通絡の作用を持つ主な生薬は、辛涼解表(保険:薄荷)、清熱解毒薬(保険:忍冬)、利水(自費:粉防已)、祛風湿薬(保険:防已、威霊仙、独活、唐独活、自費:桑枝、烏梢蛇、秦艽、海桐皮、海風藤)、活血化瘀薬(自費:五霊脂、鶏血藤)、平肝熄風(保険:天麻、自費:地竜、全蠍、蜈蚣)
桂枝(温経通絡、温通血脈)、鶏血藤(行血補血、舒筋(じょきん、ゆるめること)活絡)
止痒作用のある主な生薬は、辛涼解表薬(保険:蝉退)、清熱燥湿薬(保険:苦参、自費:白鮮皮)、利水滲湿薬(自費:地膚子(寒))、祛風湿(自費:鳥梢蛇(温寒なし)、蒼耳子(温)、除長卿(温))、平肝熄風(保険:蒺藜子(温))、平肝熄風+通絡(自費:蜈蚣(温)、全蠍、地竜(寒))です。
消腫作用のある主な生薬は、清熱解毒薬(自費:馬勃ばぼつ)、利水薬(保険:檳榔子びんろうじ、薏苡仁、自費:粉防已)、化痰止咳平喘薬(保険:桔梗、桑白皮、自費:白芥子はくがいし)、祛風湿薬(自費:虎杖)、平肝熄風(自費:白僵蚕)