傷寒と温病
中医学での感冒は7日以内に軽快するものですが、感冒より勢いの強い感染症(外感病)であり症状が進行して変化するもの(伝変)で、寒邪(悪寒が主訴)によるものを傷寒、温熱の邪(発熱、暑がる、口渇が主訴)によるものを温病と呼びます。チフス、赤痢、コレラなど細菌感染やインフルエンザは傷寒、麻疹、風疹、水痘、EBウイルス、ヘルペスウイルスは温病に当たります。抗生物質の登場により現代は、主に細菌感染症の傷寒ではなく、ウイルス感染症の温病がより重要になっています。(2020, 高橋)
新型コロナ感染症は、傷寒か温病か議論のあるところであるが、65%は悪寒が初期に見られることから、「傷寒で始まって、直ちに発熱して熱証になる傷寒病」と考えられます。(傷寒温病診療マニュアル)
病因 | 熱感 | 悪寒 | 口渇 | 頭痛 | 脈像 | 治則 | 予後 | 西洋医学 | ||
傷寒 | 寒邪 | 軽い 病態は熱証→寒証 | 重い | ない | あることが多い | 浮緊 | 辛温解表 | 陽虚裏寒になり衰弱 | 昔の細菌感染症 | インフルエンザ |
温病 | 温邪 | 顕著 病態は終始熱証 | あまりない | あることが多い | あまりない | 浮数 | 辛涼解表 | 傷陰虚熱により消耗 | 現代のウイルス感染症 | インフルエンザ、麻疹、風疹、水痘、EBウイルス |
■傷寒各病期の症状と特質
特徴 | 弁証 | 治法 | 方剤 | |||
陽病期(7日) | 発熱悪寒 | |||||
太陽病 | 悪寒、浮脈、頭痛(頭項強痛) | 表証 | 悪寒>発熱、頭痛 | 太陽中風(風邪) 発熱、発汗、悪風、脈緩 | 発汗 | 桂枝湯 |
太陽傷寒(寒邪) 無汗、体痛、嘔逆、脈緊 | 発汗 | 麻黄湯 | ||||
少陽病 | 納少、寒熱往来、胸脇苦満、口苦 | 半表半裏 | 寒熱往来、口苦咽乾、納少、咳 | 胸脇苦満 | 和解 | 柴胡桂枝湯 小柴胡湯 大柴胡湯 |
陽明病 | 便秘、潮熱 | 裏実証 経証 | 内外ともに熱盛 腹満便秘、潮熱 | 胃熱のみ | 清熱 | 白虎湯 白虎加人参湯 |
腑証 | 腹満便秘 | 瀉下 | 大承気湯 調胃承気湯 | |||
陰病期(6日) | 無熱悪寒 | |||||
太陰病 | 冷え症、口渇無下痢、腹満、間欠的腹痛、納少 | 裏証(消化器)、脾の虚寒証 | 発熱(ー)、腹満下痢、腹痛 | 虚満 | 温裏散寒 | 人参湯 |
裏寒腹痛 | 桂枝加芍薬湯 | |||||
少陰病 | 衰弱して横臥、口渇有下痢 | 裏証(心、腎の衰弱循環障害)、全身の虚寒証 | 発熱(ー)悪寒(+)、下痢、胸苦、四肢厥冷 | 軟弱無力 | 回腸救逆 | 四逆散 真武湯 |
虚熱証 | 清虚熱 | 黄連阿膠湯 猪苓湯 | ||||
厥陰病 | 寒熱錯雑、少しの口渇有下痢、 | 裏証陽虚、寒熱錯雑証 | 上熱下寒 | 軟弱無力 | 不定 (臨機応変) | 烏梅丸 当帰四逆加呉茱萸生姜湯 |
桂枝湯:桂枝、芍薬、甘草、大棗、生姜
麻黄湯:麻黄、桂枝、杏仁、甘草
白虎湯:石膏、知母、甘草、糠米
白虎加人参湯:石膏、知母、人参、甘草、糠米
大承気湯:大黄、芒硝、枳実、厚朴
調胃承気湯:大黄、芒硝、炙甘草
人参湯:人参、朮、甘草、乾姜
桂枝加芍薬湯:芍薬、桂枝、大棗、甘草、生姜
四逆散:柴胡、芍薬、枳実、甘草
真武湯:茯苓、白朮、芍薬、附子、生姜
黄連阿膠湯:黄連、黄芩、阿膠、白芍、鶏子黄(けいしおう、滋陰)
猪苓湯:沢瀉、猪苓、茯苓、阿膠、滑石
烏梅丸:烏梅、細辛、乾姜、黄連、当帰、蜀椒(しょくしょう、散寒)、桂枝、附子、人参、黄柏
当帰四逆加呉茱萸生姜湯:桂枝、当帰、細辛、芍薬、木通、甘草、大棗、呉茱萸、生姜
■六病位の概念図