慢性疲労とうつの正体

■疲労とは生体アラームのひとつ

疲労の定義は、「身体的および精神的負荷を与え続けられた時に見られる、身体的および精神的パフォーマンスの低下」と定義されています。この状態は、「腹痛」や「発熱」などと同じで心身の異常を知らせる生体アラームのひとつです。「もうこれ以上は無理はしてはいけませんよ」と警告してくれるサインです。

■末梢性疲労と中枢性疲労

末梢性疲労は、いわゆる身体の疲労で、運動を続けたときに起こる筋肉などの疲れを指します。これは通常十分な休息や睡眠をとることで回復できます。生理的な疲労で、一過性の疲労です。

一方の中枢性疲労は、頭を使いすぎたり精神的なストレス状態が続いたときに起こりやすい、脳の疲労です。長期間の思考やストレスにさらされ続けた結果、脳に疲労がたまり、休んでも疲労が取れないといったことが起こります。これは慢性的な疲労になる場合もあります。

慢性疲労やうつと言うものの正体は、中枢性疲労、いわゆる脳疲労であることが明らかにされています。

筋肉の疲労も、科学的には脳疲労になります。

■脳疲労は様々な疲れに共通の現象

新型コロナの後遺症がトピックスになっていますが、これは感染症後の疲労感のことです。

誰でも経験したときがある長時間の運動や作業後の疲れや、癌や慢性疾患の時に見られる疲労および、精神疾患のうつ状態などは、すべて脳疲労と言われる共通の現象であることも明らかにされています。

■乳酸仮説から次の仮説へ

長時間の運動を行うと筋肉に乳酸が貯まることが知られています。乳酸は酸なので乳酸の蓄積によって、筋肉が酸性に傾くことが疲労の原因と長年考えられていました。

乳酸の濃度は一時的に上がるだけですぐに正常化しますが疲労は消えないこと、乳酸は疲労に対して末梢でも中枢でも保護的に作用することなどが明らかにされて、現在は乳酸原因説は否定されています。

疲労とは、あくまで脳においてアラームが鳴っている状態で、脳疲労が正体です。

■脳疲労のメカニズム

(1)活性酸素

身体的疲労であれ、精神的疲労であれ、身体を錆びさせる活性酸素が過剰になっており、活性酸素を除去する抗酸化物質が足りなくなっていることが明らかにされています。

過剰な活性酸素によって、細胞傷害が起こりますが、これを免疫細胞が見つけて、免疫系のサイトカインと呼ばれる物質を分泌して、これが脳に作用して疲労というサインを出しています。

この細胞修復や免疫応答のために余分のATPが使われてエネルギー不足も起こって来ます。

(2)セロトニン神経系の疲弊

脳内で疲労によって一時的にはセロトニン神経系は過剰になりますが、その後は慢性的に低下することが知られています。

特に前帯状回の前部でのセロトニン神経の低下が脳疲労の重要な特性と考えられています。

脳血流の研究で推測される脳疲労の原因箇所とも一致しています。

当院で実施している定量脳波でも、前頭葉における脳波の量の低下や徐波化(スピードの低下)がよく見られます。

■脳疲労の治療

脳疲労のメカニズムとしては、過剰な活性酸素が除去し切れず、細胞傷害から免疫応答としてのサイトカインストームのような現象から、脳内では前頭葉でのセロトニン系神経の疲弊が起こってきます。

様々な原因により活性酸素が過剰になりますし、抗酸化物質が不足する原因も多々あります。

治療法は、食事やサプリによって栄養条件を最適化したり、運動、睡眠の改善など多岐に渡ります。

参考図書は以下です。

井上正康先生「疲労の科学」

下田輝一先生、八田秀雄先生「運動と疲労の科学」

梶本修身先生「すべての疲労は脳が原因」

渡辺恭良先生「疲労と回復の科学」