甲状腺機能低下症と鉄欠乏

まとめ:鉄欠乏性貧血の方は、甲状腺機能が低下する可能性はありますが、結論は出ていません。

潜在性の鉄欠乏性貧血の人は非常に多いです。

甲状腺ホルモンは、ヨウ素とチロシンから甲状腺ペルオキシダーゼによって合成されます。

この甲状腺ペルオキシダーゼは、構造式の中にヘムを持っており、理論的には極端な鉄欠乏があるとヘムの欠乏が起こるため機能出来ず、甲状腺ホルモンを作ることが出来ません。

タンパク質のペルオキシダーゼファミリーには、哺乳類(例、骨髄、ラクト、甲状腺ペルオキシダーゼ)、真菌(例、リグニン、チトクロームcペルオキシダーゼ)、植物(西洋ワサビペルオキシダーゼ)酵素が含まれます。哺乳類のペルオキシダーゼの間には強い配列同一性がありますが、哺乳類と植物/真菌の酵素の間にはそれほどではありません。それにもかかわらず、類似または同一の触媒残基がほとんどのペルオキシダーゼ活性部位に見出され、それらの触媒機構は類似しているように見える。酵素の第二の静止状態は過酸化物と反応して、がフェリル(FeIV = O)種に酸化される化合物Iとして知られる2電子酸化種を生成します。2番目の酸化等価物は、ポルフィリン(例:西洋ワサビペルオキシダーゼ)またはタンパク質(シトクロムcペルオキシダーゼ)ラジカルカチオンとして保存されます。

以上から、鉄欠乏のある人は甲状腺機能低下症になる可能性があります。

当院のデータ30名で、TSHとフェリチンの相関を見てみましたが、「相関関係はなし」で、回帰直線を引いてみると逆相関になる予定でしたが、正の相関に近似した直線になりました。

過去の論文でも、賛否両論があります。

2012年にAkhterらは、フェリチンの極端に低い36人と平均的な36人を比較して、TSHが有意に高く、T3、T4が有意に低いことを報告していますが、フェリチンとTSHには相関関係がないことを報告しています。

1990年にBeardらも、同様に鉄欠乏者群では、Free T4濃度が低いことを報告しています。

2003年にEftekhariらも同様に鉄欠乏の思春期の女性が甲状腺ホルモンの低下を報告をしています。

一方で2004年にYavuzは、トルコの330人の貧血の子供の甲状腺機能が健常者群と有意差がないことを報告しています。

フェリチンは低値では鉄欠乏の指標ですが、高値ではむしろ炎症の指標です。フェリチンが極めて低い集団を集めるなど群を分ければ、甲状腺機能低下症との有意差が出るかも知れませんが、当院のn数の少ないデータから見るとフェリチンが多少低くても、明かな甲状腺機能の問題は検出出来ません。

ヘムは、動物の代謝の基幹部分を担っており、ミトコンドリアの電子伝達系のシトクローム、ヘモグロビン、ミオグロビン、薬物代謝酵素のP450、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、一酸化窒素合成酵素などの構造を担っています。

体内の鉄利用としては、ヘムの優先順位はかなり高いと考えられるので、フェリチンの低下によっても簡単にはヘムの問題は起きないのではないかと考えています。