まとまらない唾液の話
■唾液の流量
一般に成人で一日当たり1Lから1.5Lが分泌されます。日中変動では正午または午後に分泌量がピークになり、女性より男性の流量が多いです。
■唾液と自律神経
唾液線は交感神経と副交感神経により支配されており、交感神経支配下(緊張状態)には粘液性の唾液が少し分泌されるので、口が渇き、逆に副交感神経支配下にはサラサラした唾液が多く出されます。交感神経優位になると、神経伝達物質のノルアドレナリンが分泌され、アドレナリン受容体に結合すると、アミラーゼなどの唾液タンパク質が分泌されます。 副交感神経優位になると、アセチルコリンが分泌され、ムスカリン受容体に結合すると、血漿成分中の水が唾液として分泌されます。
交感神経と副交感神経は、一般的には反対の動きをしますが、唾液に関してはどちらも分泌を促します。
アミラーゼは唾液腺と膵臓から分泌される消化酵素で、炭水化物を分解します。
アミラーゼが高い:急性・慢性膵炎、唾液腺の疾患、膵臓癌、腎不全
アミラーゼが低い:進行した慢性膵炎など
■唾液過多、口腔乾燥の論文
小括:唾液過多・口腔乾燥は、実際の唾液量の問題がある真性と、問題が無い仮性に分かれます。仮性の場合は、安定剤、漢方薬、心理療法などの治療法があります。
2021年に堀田らは、発作性交感神経亢進症(高体温、頻脈、 筋緊張亢進など)に伴って発症した真性唾液過多症に、副交感神経遮断薬のアトロピンが有効であったことを報告しました。
2018年に井野らは、唾液過多93例、口腔乾燥937例を考察しました。過多群は乾燥群の10分の1程度でした。
乾燥群で実際に安静時唾液量が「低下」していた症例は 63.0%で、症例の 37.0%に唾液量低下は確認できませんでした。
過多群で安静時唾液量が「過多」であった症例は 25.3%で、症例の 74.7%に「過多」は確認できませんでした。
多くの症例で、唾液量を測定にて唾液量と過多および乾燥は相関しない真性ではなく仮性であることを指摘しました。以上から、唾液過多および口腔乾燥はうつ病などの心理的要因が大きいと結論付けました。
2006年に岸本らは、真性唾液過多症の一例報告をしました。顎下神経節ブロックにて唾液量が減少したことから、顎下腺が責任病巣であると考えました。抗ヒスタミン剤、マイナートランキライザー、H1ブロッカー、カルバマゼピンを投与して、カルバマゼピンがやや有効であった。最終的には、左顎下腺摘出を行い経過良好でした。
唾液過多症に対して、心理療法や行動療法の有効性も指摘されています。(2000年の佐藤ら、2021年の中野ら)
■よだれつわりには、漢方薬が有効な場合があります
2013年に西田は、妊娠に伴う唾液過多(よだれつわり)に人参湯が有効であった症例を報告しました。人参湯の主成分の乾姜(加熱加工したショウガ)の鎮吐作用が有効に働いたと考察しました。
妊娠に伴う唾液過多には、五苓散、茯苓飲合半夏厚朴湯、抑肝散、六君子湯、加味逍遥散の有効性が報告されています。
■口腔乾燥、口渇を起こす疾患など
1.シェーグレン症候群
シェーグレン症候群は、涙液分泌低下(ドライアイ)、唾液分泌低下(ドライマウス)等の乾燥症状を主に感じる全身性の自己免疫疾患です。40~60代を中心とした年齢分布で、潜在的な患者数は10万人に達すると言われています。関節リウマチ患者の中に潜在患者が多く含まれているとも言われています。
シェーグレン症候群による口腔乾燥症状は、唾液線や導管周囲にリンパ球が組織内で増殖して広まり、後に腺房細胞の破壊、萎縮、消失、間質の線維化を来たし、唾液分泌低下により発現します。唾液線だけでなく、涙腺(ドライアイ)、気管・気管支(鼻の乾燥、気管支炎)、消化管・膵(胃液・膵液の分泌低下)、膣分泌腺感染など全身の外分泌腺に対して障害が起きることもあります。
2.低カリウム血症、高ナトリウム血症で口渇を起こすことが知られています。
生野菜、果物の摂取が少ないと低カリウム血症、塩分が過多になると高ナトリウム血症になります。
唾液腺は無数の毛細血管が走っています。この毛細血管の中の血液のさまざまな成分が唾液の成分となります。また唾液中の成分も毛細血管に吸収されます。血液と唾液は互いに循環し合っています。
3.抗ヒスタミン剤、抗コリン剤、抗うつ剤、利尿薬などの副作用として口渇があります。