イヌイットの健康神話は大昔の話です
まとめ:産業革命以降の水質汚染によって、海洋哺乳類主食としていたイヌイットは、水銀汚染などの問題がありました。現在は、イヌイットの食の欧米化に伴い海洋汚染の影響は軽減していますが、現代食による現代病の問題が新たに出現しています。
北極海に住む生体のメチル水銀の量が、1850年以降急激に増えていることが報告されています。
カナダ健康対策調査(2007–2009)の成人参加者の血中平均水銀濃度は4.1 nmol / Lに比べて、イヌイット集団では高値になることが報告されています。
イヌイット集団における2004年の水銀の平均血中濃度は51.2nmol / Lであり、これは1992年から32%の減少しています。水銀の減少は海洋哺乳類(アザラシ、イルカなど)から一般的な西洋食への食事の変更によって説明できます。(2008年、Fontaineら)
同時期の別の調査で、イヌイット集団における水銀の平均血中濃度は50.2nmol / Lであり、収縮期血圧(2009年、Valeraら)および心拍変動(2008年、Valeraら)と相関することが報告されています。
イヌイットの子供の血液中の水銀は14.5 nmol / Lで、心拍変動と相関しており、水銀の暴露が心拍数に影響を与えることが報告されています。(2012年、Valeraら)
イヌイットの子供における血中水銀濃度と視覚誘発電位の変化が相関することが報告されています。(2006年、Saintら)
→イヌイットの大人も子供も水銀中毒レベルではない水銀蓄積の問題があったが、食の欧米化に伴って改善されつつある。
イヌイットの子供の健康に関する横断的調査が2007年と2008年に行われ、子供の髪の水銀レベルと推定される食事中の水銀摂取量との間に正の線形回帰関係が観察されました。(2011年、Tianら)
イヌイットの集団においては、血中水銀濃度、血中セレン濃度、血中オメガ3脂肪酸濃度は、相関しており、水銀毒性に対して保護効果のあるセレンとオメガ3脂肪酸は、水銀の摂取源である海洋哺乳類と同一であることから、イヌイット集団に対する食事指導はリスクとベネフィットがあることが指摘されています。(2013年、Lairdら)
一般集団では血中水銀と血中セレンは相関しません。(2006年、Gundakarら)
オリゴスキャンでは、組織内の水銀とセレンは、有意ではない逆相関の傾向があります。
ヒトにおける水銀の生物学的半減期は70日と短いので、通常の魚食では水銀中毒になることはありません。
セレンと水銀がモル比で1対1のセレン化水銀として安定した金属粒子を形成して排泄されます。
→海洋哺乳類由来の水銀を摂取する場合は、無毒化されるセレン化水銀の形で摂取するので、水銀中毒は大きな問題にはならない。
2006年から2008年にかけてヌナビク保育所(カナダ、ケベック州北部)で155人のイヌイットの子供の水銀の血中濃度の中央値は9.5でした nmol / Lでした。リコピンを含むトマト製品の消費は、水銀レベルと負の相関があり、アザラシの肉の消費は、水銀レベルと正の相関があることが報告されました。(2013年、Gagneら)
イヌイットの女性集団において、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ヘキサクロロベンゼン(HCB)、水銀(Hg)の血中濃度と、妊娠期間および胎児の成長との負の相関が報告されています。(2013年、Dallaireら)
イヌイットの食の欧米化に伴って、うつ病、糖尿病(2002年、Jorgensenら)、肥満、高尿酸血症(1990年、Thouezら)などの現代病が急増しています。