新型コロナとエストロゲン、敵か味方か?

まとめ:エストロゲンは新型コロナに対して、急性感染では保護的に働きますが、後遺症ではリスク要因となるようです。

■エストロゲンが保護的に働くという論文(2021, Di Vincenzo)

急性期の新型コロナ感染症は、高齢男性に多いことが総括されています。(2020, Gebhard)

旧型コロナ感染症であるSARS および MERSの疫学的データは、発症が男性に偏っていることを示しています。(2004, Karlberg)(2014, Alghamdi)

旧型コロナ感染症であるSARSとMERSをマウスに感染させた実験では、メスよりオスのマウス、若年より中年のマウスが感染しやすいです。卵巣摘出またはエストロゲン受容体拮抗薬によるメスマウスの治療は死亡率を増加させたことからも、旧型コロナ感染したマウスのエストロゲン受容体シグナル伝達が保護効果を持つことを示しています。(2017, Channappanavar)

ウイルス感染に対する自然免疫応答と適応免疫応答を調節する性特異的ステロイドと X連鎖遺伝子の活性が指摘されています。女性が2本持っているX染色体は、ヒトゲノム全体の中で最大数の免疫関連遺伝子が含まれており、理論的には、効率的かつ迅速な免疫応答を開始する点で、女性は男性よりも 2 倍有利です。(2007, Spolarics)(2021, Pirhadi)

エストロゲンが抗ウイルス作用を持つことが報告されています。(2000, Smith)(2011, Robinson)

■エストロゲンがリスク要因になるという論文

乳癌および卵巣癌の治療を受けた女性に対する抗エストロゲン療法によって、急性の新型コロナ感染症の有病率が減少したことが報告されています。(2021, Montopoli)

エストロゲンは、肝臓において血液凝固因子合成を促進させる作用を持っており、エストロゲンを投与する偽妊娠療法で使うピルは、血栓症を起こしやすくなります。血栓症のリスクのある肥満、喫煙者、40歳以上、高血圧などの方は注意が必要です。

新型コロナウイルス感染症は、全身性の炎症によって凝固能が亢進して、血栓症を生じることが知られています。低用量ピルを含むエストロゲン製剤を服用していると、血栓症の発症リスクがに上昇します。以上から新型コロナウイルスに感染した場合は、エストロゲンの補充療法は一旦中止します。

SARS-CoV-2スパイクタンパク質はエストロゲン受容体に結合します。(2022, Solis)

SARS-CoV-2スパイクタンパク質はエストロゲン受容体に結合して、エストロゲン受容体が活性化して血栓症のリスクが上がることにより、ワクチンそのもので血栓症のリスクが上がることが懸念されています。(2022, Barbieri)

新型コロナ後遺症を発症するリスク要因として、女性であることがレヴューで報告されています。(2022, Sylvester)

新型コロナ後遺症を発症するリスク要因は、女性、高齢、喫煙でしたが、急性の新型コロナ感染症の重症度は無関係でした。(2022, Bai)

急性の新型コロナ感染症において、高齢の男性ではほとんどT細胞が活性化しないために感染率が高くなります。一方で、女性ではT細胞が活性化が強すぎるために、急性感染は防げますが、後遺症につながる可能性が指摘されています。(2021, Takahashi)