遊離脂肪酸
まとめ:新型コロナ後遺症では遊離脂肪酸が上昇します。ミトコンドリアにおける基質利用の機能不全、脂肪酸β酸化能力の障害が原因です。
PASC(post-acute sequelae SARS-CoV-2 infection)と呼ばれる新型コロナ後遺症において、高レベルの循環遊離脂肪酸が報告されています。(2022, Gunter)
新型コロナ感染症においても、遊離脂肪酸の上昇が報告されており、重症度と相関して、回復すると正常化することが報告されています。(2022, Valdés)
ME/CFSのメタボローム解析でも、遊離脂肪酸のひとつであるパルミチン酸の増加が指摘されています。(2017, Germain)
血液中の遊離脂肪酸の主なものは、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸などの長鎖脂肪酸です。
血中遊離脂肪酸濃度は、消化管からの吸収や肝での合成により影響されるほか、主として脂肪組織からの貯蔵されたトリグリセリドの分解・放出により決定されます。
これらの脂肪酸は水に溶けないため、血漿アルブミンに結合して輸送されます。
遊離脂肪酸は、グルコースの不足を感知する負のエネルギーバランス指標と呼ばれています。
遊離脂肪酸は、その時点でのエネルギー不足を反映する最も優れた負のエネルギーバランス指標と呼ばれています。
身体の中でグルコースの不足が起きている場合、生体のエネルギー不足を補うための代替手段が取られるようになります。それが蓄積されている体脂肪の利用です。体脂肪は身体のいたるところにある脂肪細胞中に中性脂肪の形で蓄積されています。この脂肪細胞はホルモン感受性リパー(hormone-sensitive lipase, HSL)という酵素を持っており、負のエネルギーバランスの状態になると、このホルモンが活性化して細胞内の中性脂肪を分解し、大量の脂肪酸を生成していきます。この脂肪酸が脂肪細胞外に出ていくのですが、前述の通り脂肪酸は水に難溶のため血中に現れアルブミンと結合して遊離脂肪酸(Free Fatty Acids, FFA)の形で血液中を移動していくことになります(下図)。このような動きを専門用語では「体脂肪動員」といいます。負のエネルギーバランスに誘発されて血中に出現した遊離脂肪酸を測定することによって、体脂肪動員の程度を推察することになります。体脂肪を分解して、他脂肪動員の主軸となる体脂肪が分解されて血中に脂肪酸を放出するという代謝系は、エネルギー状態に対して非常に鋭敏に反応し、NEBでは短時間で活性化するのに対し、エネルギー状態が改善するとすぐに活性の低下が起きます。このため、遊離脂肪酸の値は採血したその時点でのエネルギー状態の指標となります。
糖質の摂取を止めるケトジェニックダイエットでは、血中の遊離脂肪酸が2.2倍になることが報告されています。(2003, Fraser)
飢餓によっても、糖尿病によっても血中の遊離脂肪酸が上昇することが指摘されています。(1964, Garland)
遊離脂肪酸は、正のエネルギーバランスのメタボリックシンドロームでも増加します
遊離脂肪酸は、主に増加した脂肪量からの放出の結果として、肥満の人で上昇します。(1969, Björntorp)(2011, Borden)
遊離脂肪酸の増加が、インスリン抵抗性の病因とそれに続く、炎症誘発性サイトカインを誘発し、高血圧、心血管疾患リスクなどのメタボリック シンドロームの発症に関与していることが示されています。(2018, Suiter)(2011, Borden)
遊離脂肪酸の低下は、インスリン抵抗性を改善させます。(1999, Santomauro)
健常者と糖尿病患者における血中の遊離脂肪酸の日内変動が、下図になることが報告されています。(1988, Revean)