漢方薬に下痢止めはない、暑気あたりの漢方治療
西洋薬では下痢止めの薬はいくつか有りますが、漢方薬には下痢止めはありません。
下痢に効果のある漢方薬は、利水滲湿薬に分類されており、体内の余分な水分を尿から排泄させる作用を持つもののことです。
下痢が起こる場合は、消化器から異物や細菌などを排泄する生体防御的な動きが起こっている場合もあるので、天人相応の概念を基本とする中医学では、下痢止めという方剤は存在しません。
西洋医学で下痢は、感染性腸炎と過敏性腸症候群の2つで主に考えます。
これは中医学では、痢疾と泄瀉におおよそ相当します。
痢疾 | 泄瀉 |
しぶり腹あり、排便後も痛みが続く | しぶり腹なし、排便後も痛みが解消 |
感染症状あり | 感染症状なし |
抗ウイルス作用のある黄芩湯、黄連解毒湯、小柴胡湯 | |
泄瀉はさらに以下に分類されます。
暴瀉(実証、便に色と臭いがある) | 寒湿(風寒) | 水様便 | 暖めると腹痛が軽減、冷え症 | 人参湯、五積散 |
湿熱(暑湿) | 切迫した下痢 | 暑さによる食欲不振 | 清暑益気湯、五苓散 | |
久瀉(虚証、便に色と臭いがない) | 肝気乗脾 | 感情やストレスで誘発される下痢 | イライラ、不眠、不安、緊張 | 甘草瀉心湯 |
脾胃虚弱 | 慢性下痢 | 食欲不振、胃弱 | 啓脾湯、六君子湯、 参苓白朮散 | |
腎陽虚衰 | 夜明け前の下痢 | 下半身がだるい、むくむ | 真武湯 | |
エキス剤の生薬は以下です。
人参 | 蒼 朮 | 蓮肉 | 山 楂子 | 甘草 | 半夏 | 芍薬 | 黄芩 | 当帰 | 陳皮 | 厚朴 | 黄耆 | 麦 門冬 | 乾姜 | 桂皮 | 茯苓 | 沢瀉 | 猪苓 | 薏 苡仁 | 滑石 | 大棗 | 山薬 | |
補益 | 健脾 | 健脾 | 消化 薬 | 補益 | 補気 | 清熱 解毒 | 清熱 燥湿 | 助陽 | 行気 | 行気 | 補気 | 滋陰 | 散寒 | 散寒 | 利水 滲湿 | 利水 滲湿 | 利水 滲湿 | 利水 滲湿 | 利水 滲湿 | 補益 | 補気 | |
補脾 | 去 風湿 | 調和 | ||||||||||||||||||||
人参湯 | 3 | 3 | 3 | 3 | ||||||||||||||||||
五積散 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | |||||||||||||||
清暑益気湯 | 3.5 | 3 | 3 | 3 | 3.5 | 3.5 | ||||||||||||||||
五苓散 | 4.5 | 3 | 4.5 | 6 | 4.5 | |||||||||||||||||
猪苓湯 | 3 | 3 | 3 | 3 | ||||||||||||||||||
甘草瀉心湯 | 2.5 | 3.5 | 5 | 2.5 | 2.5 | 2.5 | ||||||||||||||||
六君子湯 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | ||||||||||||||||
啓脾湯 | 3 | 4 | 3 | 2 | 3 | 4 | 3 | |||||||||||||||
参苓白朮散 | 3 | 4 | 4 | 4 | 8 | 3 | ||||||||||||||||
真武湯 | 3 | 3.6 | 5 | |||||||||||||||||||
利水滲湿作用(ある意味下痢止め)は、(猪苓湯)>五苓散>参苓白朮散>(茯苓を含むエキス剤)の順番。この作用が強いと暑気あたり(中暑)の病機である気陰不足が悪化します。
この中で滋陰作用を持つのは、清暑益気湯だけ。(陰虚の基本処方は、滋陰降火湯 合 六味丸)
健脾作用は、啓脾湯>参苓白朮散>六君子湯。
下痢、胃弱、暑気あたり、虚弱のまとめ
とにかく下痢を止めたい | 猪苓湯>五苓散 |
まず下痢を止めて、次に胃腸の調子を整える | 参苓白朮散 |
まず胃腸の調子を整えて、次に下痢を止める | 啓脾湯>参苓白朮散>六君子湯 |
下痢(ー)で、胃腸の調子だけ整えたい | 六君子湯 |
暑気あたりで、気血不足が目立つ | 清暑益気湯 |
もともと気血不足 | 人参栄養湯>十全大補湯 |