ALSと食事、栄養素との関係

ALS(Amyotrophic lateral sclerosis)と食事、栄養素との関係についてまとめました。

■ホモシステインがリスク

ALSの血中ホモシステインレベルを調べた9つの研究の結果では、ALS患者と対照群の間で、血中ホモシステイン、葉酸、またはVB12の血漿レベルに有意差はありませんでした。ALS集団におけるCSF中ホモシステインレベルは、対照群よりも著しく高かった。葉酸やVB12を含むビタミンサプリメントは、欠乏症を合併しているALS患者に推奨される可能性があります。(2023, Hu)

■PUFA(多価不飽和脂肪酸)がリスク

アメリカでのALS患者165人を対象とした研究で、魚介類を介した推定年間水銀摂取量もオメガ-3 PUFA 摂取量も、ALS リスクとは関連していませんでした。一方で、家族の収入はALSリスクと有意な正の相関を示しましたことから、ALSの発生率は社会経済的地位と関連しています。(2021, Hoffman)

オメガ 3 脂肪酸は筋萎縮性側索硬化症モデルにおける疾患の進行を促進します。この結果は、ALS における EPA の食事摂取が症状を悪化させ、病気の進行を加速させる可能性があることを示しています。(2013, Yip)

家族性ALSのマウスモデルにおいて、オメガ3は神経病理の進行を促進し、オメガ6は進行を遅らせることが報告されています。(2017, Boumil)

日本での153人を対象にした食事摂取量との研究で、炭水化物の多量摂取がALSの発症リスクを上げること、さらに多価不飽和脂肪酸と炭水化物の組み合わせが発症リスクを上げることが報告されています。(2007, Okamoto)

■ビタミンEの保護効果はやや不透明

ALS患者525人を対象にした研究で、ビタミンEサプリの定期的な摂取は死亡リスクの低下と関連していましたが、ビタミンCおよびマルチビタミンの摂取は無関係でした。(2005, Ascherio)

オランダでの132人を対象にした研究で、ビタミンEの多量摂取は、ALS 発症リスクの 50 ~ 60% 低下と関連していることが報告されています。(2007, Veldink)

1153人のALS患者を対象とした5つの研究の解析で、ALSの発症に対してビタミンEの保護効果について、食事及びサプリメントの保護効果が指摘されています。(2011, Wang)

ビタミンE摂取とALSのリスクとが無関係であると指摘する報告もあります。(2009, Okamoto)(2000, Longnecker)

■野菜と果物は保護効果あり

ALSの発症リスクに対して、食事摂取量との研究でマグネシウムおよびリコピンが保護的に働くことが指摘されています。(2000, Longnecker)

日本での153人を対象にした食事摂取量との研究で、果物や野菜などの抗酸化物質が豊富な食品をより多く摂取すると、ALSの発症を防ぐことができることが指摘されています。(2009, Okamoto)

1153人のALS患者を対象とした5つの研究の解析で、主要カロテノイド総摂取量の増加は、ALS のリスク低下と関連していました 。β-カロテンとルテインの食事摂取量が多いほど、ALS リスクと逆相関しました。リコピン、β-クリプトキサンチン、ビタミンCはALSのリスク低下と関連していませんでした。(2013, Fitzgerald)

5つの大規模な前向きコホート研究の解析で、食事によるマグネシウム摂取は ALS リスクと関連していないことが指摘されています。(2013, Fondell)

ALS患者302名からのコホート研究にて、果物や野菜など、抗酸化物質とカロテンを多く含む食品の摂取が推奨されています。(2016, Nieves)

■炭水化物の大量摂取がリスクを上げ、タンパク質の摂取がリスクを下げます

日本での153人を対象にした食事摂取量との研究で、炭水化物の多量摂取がALSの発症リスクを上げること、さらに多価不飽和脂肪酸と炭水化物の組み合わせが発症リスクを上げることが報告されています。(2007, Okamoto)

148名のALS患者を対象とした主要栄養素の摂取との研究で、タンパク質と脂肪、特に肉の摂取がリスクを低下させて、炭水化物の摂取がリスクを上げることが指摘されています。(2018, Kim)

■酸化ストレスとの関連あり

農薬、重金属、兵役、プロスポーツ、過度の身体運動、慢性頭部外傷、および特定の食品が ALS リスクと適度に関連している可能性があり、リスクと喫煙との関連性がより強い可能性があることが示されています。細胞レベルでは、これらの因子はすべて酸化ストレスの生成に関与していることが指摘されています。(2013, D'Amico)

米国での210人を対象にした研究で、爪に含まれる水銀濃度とALSの発症リスクとの相関が報告されています。(2020, Andrew)

■カルニチン

ALS患者に対するアセチル-L-カルニチンの保護効果が報告されています。(2013, Tremolizzo)

L-カルニチンは神経筋変性の発症を抑制し、家族性筋萎縮性側索硬化症のマウスの寿命を延ばすことが報告されています。(2006, Kira)

30名のALS患者では健康な人に比べて血清L-カルニチン濃度が低く、L-カルニチンの血清レベルが低いほど、疾患の重症度が高いことが報告されています。(2021, Saraff)

長期経管栄養を受けている筋萎縮性側索硬化症患者におけるカルニチン欠乏症による精神状態の低下が症例報告されています。(2013, Ichise)