間質性肺炎(肺痿)の中医治療
間質性肺炎は、中医学では肺痿(はいい)と呼ばれます。
間質性肺炎は「間質」と呼ばれる肺胞の壁に炎症や損傷が起こる病気です。 肺胞の壁が厚く硬くなるため(線維化といいます)、酸素を取り込みにくくなります。このために主症状は、「労作時の呼吸困難と長引く無痰の乾咳」で、進行すると呼吸不全となります。平均寿命は3〜5年です。自己免疫疾患、マイコプラズマ感染、新型コロナ感染、アスベスト、薬剤など様々な原因で発症します。ほとんどの症例で喫煙が関係しており、治療は禁煙が原則です。レントゲンでは全体がすりガラス状に見えます。
■弁証の要点
1.寒熱を弁ず。虚熱の肺痿では、陰液が不足して虚熱が内生して陰虚内熱となります。虚寒の肺痿では、陽気が傷耗して肺中が虚冷して気傷虚冷となります。
2.兼証を弁ず。肺痿の病位は肺にあるが、肺陰が不足すると腎陰も不足して、潮熱、盗汗、手足心熱、腰膝酸軟となります。肺気が不足すれば脾気も虚損して、乏力、納少、腹腫、便溏となります。
虚熱 | 粘調の濁唾涎沫(せんまつ)を咳吐し、喀出が困難、粘い糸を引く、喀血、咽乾、口渇、冷飲を好む | 竹葉石膏湯加減 |
+心陰不足 | 心悸、健忘、不眠、易驚、多夢 | 合 黄連阿膠湯 |
+腎陰不足 | 潮熱盗汗、手足心熱、腰膝酸軟 | 百合固金湯、月華丸、麦味地黄湯、金水六君煎、拯陰理労湯 |
虚寒 | 希薄な涎沫を咳吐し、量が多い、口渇なく、冷え症、 | 甘草乾姜湯加減 |
咳唾涎沫が止まず、咽燥、口渇 | 生姜甘草湯加減 | |
+脾気虚弱 | 乏力、納少、腹腫、便溏 | 補中益気湯、保元湯、六君子湯 |
+腎陽不足 | 腰腿無力、咳すれば遺溺(尿もれ)、心悸気喘 | 拯陽理労湯 |
寒熱挟雑 | 虚熱と虚寒は同時に出現することがある。 | 麻黄升麻湯加減 |
竹葉石膏湯:竹葉(清熱瀉火)、石膏、麦門冬、半夏、人参、炙甘草、糠米(ぬかごめ)
黄連阿膠湯:黄連、黄芩、白芍、鶏子黄(けいしおう)、阿膠(補血)
百合固金湯:生地黄、熟地黄、百合(びゃくごう、滋陰)、麦門冬、貝母、当帰、白芍、甘草、玄参、桔梗
月華丸:天門冬、麦門冬、生地黄、熟地黄、山薬、桃仁、赤麹、沙参、貝母、阿膠、茯苓、獺肝(だつかん)、三七(さんしち)
麦味地黄湯:生地黄、山茱萸、山薬、茯苓、牡丹皮、沢瀉、五味子、麦門冬
金水六君煎:当帰、茯苓、半夏、熟地黄、陳皮、炙甘草、生姜
拯(じょう)陰理労湯:牡丹皮、当帰、麦門冬、橘紅(きっこう)、炙甘草、薏苡仁、蓮子(れんし、収渋)、白芍、五味子、人参、生地黄、大棗
甘草乾姜湯:炙甘草、乾姜
生姜甘草湯:生姜、甘草、人参、大棗
補中益気湯:黄耆、白朮、甘草、人参、升麻、柴胡、陳皮、当帰
保元湯:人参、黄耆、甘草、官桂(肉桂)、生姜
六君子湯:白朮、茯苓、人参、半夏、陳皮、大棗、生姜、甘草
拯陽理労湯:黄耆、人参、肉桂、当帰、陳皮、白朮、甘草、五味子、生姜、大棗
麻黄升麻湯:麻黄、升麻、当帰、知母、黄芩、葳蕤(いすい、玉竹、滋陰)、芍薬、天門冬、桂枝、茯苓、炙甘草、石膏、白朮、乾姜
日本でのみの報告であるが小柴胡湯などのエキス剤漢方薬による薬剤性間質性肺炎の報告があり、エキス剤漢方薬に含まれる原因となる生薬として黄芩が挙げられています。(2002, 寺田)
また、黄芩と柴胡は肝障害の報告もあります。(2019, Wuweizi)