陽虚と免疫

■低体温と感染リスク

軽度から中等度の低体温(32~35°C)は、虚血後の神経損傷に対する効果が実証されていますが、一方で感染リスクなどの問題があります。(2009, Poldeman)

外気の低温と低湿度は、呼吸器感染症の発生リスクと関連することが知られています。(2009, Makinen)

救急外来で低体温を呈した生後60日以内の乳児は、重篤な細菌感染症およびヘルペスのリスクが高いことが報告されています。(2019, Ramgopal)(2020, Ramgopal)

温熱療法が乳がんなどに対して有効であることが報告されています。(2010, Dooley)

■陽虚と感染リスク

中医学では、感染症(外感病)は外邪が身体に侵入することで起こるとされます。外邪が侵入するかどうかは、体の防御力(正気、特に衛気)に依存します。陽虚になると以下のメカニズムで感染しやすくなると考えられます。

  1. 衛気の弱化
    • 衛気は陽気によって駆動され、皮膚や毛穴を守り、外邪の侵入を防ぎます。陽虚で衛気が不足すると、外邪(風寒、風熱など)が簡単に体内に入り込み、風邪やインフルエンザなどの感染症を引き起こしやすくなります。
  2. 体温調節の低下
    • 陽気は体を温める役割を持ちます。陽虚で体が冷えやすくなると、免疫系(中医学では正気の働きの一部)が弱まり、ウイルスや細菌に対する抵抗力が低下します。
  3. 気血の運行不良
    • 陽虚では気血を全身に巡らせる力が弱まり、免疫に関連する臓腑(脾や肺など)の機能が低下。これにより、外邪を追い出す力が不足し、感染が進行しやすくなります。

具体例

  • 脾陽虚: 消化吸収が弱まり、栄養から正気を生み出す力が低下。結果として衛気が不足し、感染症にかかりやすくなる。
  • 腎陽虚: 生命の根源である腎の陽気が不足すると、全身の防御力が落ち、長引く感染症や再発しやすい状態に。
  • 臨床での観察: 陽虚体質の人は、寒い季節に風邪をひきやすい、回復が遅い、といった傾向が見られます。

西洋医学との対比

西洋医学では免疫力が低下することで感染しやすくなると説明されますが、中医学の陽虚はこれに近い概念です。陽虚は「エネルギー不足による免疫低下」とも解釈でき、特に冷えや代謝低下が感染リスクを高めると言えます。