糖尿病の検査・症状・治療
(2024年9月6日の記事を修正しました)
基準値 | |||
HbA1c | 過去1〜2ヶ月の平均血糖値を反映 | 糖尿病の診断 | 4.6~6.2%(英国6.5〜7.5%) |
グリコアルブミン | 過去2週間(〜1ヶ月)の平均血糖値を反映 | 補助検査 | 11.6~16.4% |
1,5-AG | 過去1週間の血糖値スパイクを反映、インスリン分泌と相関 | 補助検査 | 14.0以上(μg/mL)が正常 |
空腹時血糖値 | 糖尿病の診断 | 126mg/dl以上 | |
空腹時インスリン | 1型では非常に低い、2型では初期は高く、進行すると低下 | 補助検査 | 5~15 μU/mL |
HOMA-IR | 空腹時インスリン値(μU/mL) x 空腹時血糖値(mg/dL) / 405 | インスリン抵抗性の評価 | 2.5以上でインスリン抵抗性あり |
AGEs | 体内に蓄積したこげ付き物質(最終糖化生成物) | 合併症リスク評価 | 糖化年齢 |
初期症状 | ||
口渇 | 高血糖のため | |
多飲 | 口渇のため | |
頻尿 | 多飲のため | |
体重減少 | インスリン抵抗性が進行して、インスリン不足となる、軽症のインスリン抵抗性では脂肪合成を促進して太ります | |
目のかすみ | 糖尿病性網膜症の前駆症状 | 眼底検査など |
皮膚の痒み、特に陰部 | 皮膚の乾燥、および血糖値が高いと、皮膚の神経が過敏になり、かゆみを感じやすくなる(糖尿病性神経障害の初期症状)。 | |
易感染性、傷が治りにくい | 高血糖は皮膚の免疫機能を低下させ、細菌や真菌(カンジダなど)の感染を起こしやすくする。特に陰部は湿気がこもりやすく、真菌感染(例: カンジダ症)がかゆみの原因になることが多い。 | |
進行症状 | ||
手足のしびれや痛み | 糖尿病性神経障害 | 神経伝導検査 |
視力低下 | 糖尿病性網膜症 | 眼底検査など |
足の感覚が鈍る | 壊疽、末梢動脈の動脈硬化による血流障害 | MRA、血管造影 |
グルコースは血中に含まれる物質の中では比較的反応性が高く、健常なヒトにおいても、非酵素的に、すなわち勝手に、様々なタンパク質と一定の速度で反応して結合します。これを糖化と言い、グルコースとヘモグロビンが結合したものの総称をグリコヘモグロビンまたは糖化ヘモグロビンと言います。そのようにしてAGEs(終末糖化産物)が生成されます。
AGEsのひとつがグリコヘモグロビンで、グリコヘモグロビンのひとつがHbA1cです。
ヘモグロビンもタンパク質であり、グルコースが共存していれば、この糖化から逃れることはできません。ヘモグロビンとグルコースが共存すると、非酵素的に一定の速度でグリコヘモグロビンが生成します。なお、この反応は不可逆反応であるため、健常なヒトにおいても血中で徐々にグリコヘモグロビンは生成蓄積しています。
ヘモグロビンは1種類のタンパク質ではなく、HbA、HbB、HbFの3種類あり、HbAは全体の97%を占めます。HbAが糖化したものがHbA1で、HbA1はさらに、HbA1aからHbA1cまで3種類あり、その中で最も量の多いHbA1cが、日頃の(過去1〜2ヶ月の平均血糖値を反映)血糖値を反映することから、日常診療で使われています。(2016, Sherwani)
赤血玉の寿命は120日であり、30日で半分が入れ替わること(半減期が30日)であることから、HbA1cは過去1〜2ヶ月の平均血糖値を反映します。
グリコアルブミン(糖化アルブミン)は、血清のタンパク質の主要成分であるアルブミンが糖化されたものです。アルブミンの半減期は約17日程度であることから、グリコアルブミンは直近過去2週間(〜1ヶ月)の血糖の状態を反映します。
HbA1cは、過去1〜2ヶ月の平均血糖値を反映しているもので、過去1〜2ヶ月の血糖変動性との相関はありません。血糖変動性は、観察期間の標準偏差(SD)のことで、いわゆる血糖値ピークを意味します。(2003, Derr)
HbA1cが高いほど、糖尿病の合併症(末梢動脈疾患)が高いことが知られています。(2005, Muntner)
HbA1cは、糖尿病の予後(長期糖尿病合併症のリスク)を反映する信頼性の高いバイオマーカーです。(2016, Sherwani)
1,5-アンヒドログルシトール(1,5-AG)はグルコースに類似した構造を持つ、生体内で最も含有量の多いポリオール(複数の水酸基をもつ多価アルコール、食物より供給される)です。高血糖により尿糖が出ると、1,5-AGの体内への再吸収も阻害されるため、尿に失われて血中濃度は減少します。単回の少量の尿糖排泄程度では血中濃度への影響は少ないが、食後高血糖が頻回となり、尿糖排泄がくり返されると、1,5-AGは低下します。
HbA1cやグリコアルブミンは、グルコースと蛋白が結合する糖化反応により生成するため、それらの変化が完成するには数時間以上を要し、食後高血糖のような短時間のスパイク状の変化の影響は受け難いですが、1,5-AGは血糖スパイクの影響を反映する指標で、糖尿病の指標の中で唯一高いほど良い検査です。(2008, Dungan)1,5-AGの濃度は、正常の血糖値では、1日0.3μg/mlづつ上昇し、約5週間で正常範囲に戻ります。 1,5-AGの半減期が、1~2週間のため、短期的な血糖値変動を反映します。
1,5-AG は基礎インスリン感受性および分泌と相関しているだけでなく、新たに 2 型糖尿病と診断された中国人患者の早期インスリン分泌とも密接に関連しています。(2015, Ma)
高インスリン血症が、老化、癌化、肥満、心血管疾患、2型糖尿病の原因であると考えられています。(2021, Yanssen)
1,5-AGで示唆される急性高血糖が、少なくとも部分的にはCD4 +およびCD8 + 28 -リンパ球サブセットの変化を通じて、2型糖尿病におけるアテローム性動脈硬化の進行につながることが報告されています。(2007, Dworacka)
1.5-AGは、心血管リスクと相関することが報告されています。(2011, Watabane)
1.5-AGで示唆される血糖値のピークは、認知症発症との関連が報告されています。(Rawling, 2017)
■HbA1c、1.5-AGを下げる方法
2型糖尿病の方を対象として、間欠的断食を実施した結果、体重は有意に減少したがHbA1cは下がりませんでした。(2021, Borgundvaag)
繊維質の摂取量の多い患者や グリセミックインデックス(GI) の高い食物の摂取量の少ない患者では、 HbA1c 値が低くなります。(2012, Jiang)
糖尿病患者では、低GI食がHbA1cの低下と関連していることが知られています。(2015, Wang)(2019, Zafar)
HbA1cと間食との関係は結論は出ていませんが、一部の患者で悪化しました。(2016, Yan)
糖尿病患者では、酸化ストレスマーカーが上昇しており(2015, Gawlik)、抗酸化治療の有効性が総括されています。(2022, Zhong)