化学物質過敏症
化学物質過敏症(Multiple chemical sensitivity)は、1970年代に問題になったシックビルディング症候群、1990年代に問題になったシックハウス症候群、2000年以降で問題になった香害の近縁疾患です。
これらは、いずれも室外の大気汚染の問題に対して、室内汚染の問題です。
化学物質過敏症の定義は、極微量の石油由来の化学物質などによって、免疫系、神経系、内分泌系など多岐にわたる症状を示す疾患とされています。
一度発症すると、症状を発する対象化学物質が雪だるま式にどんどん増加し、普通の生活が送れなくなるケースもあります。この現象はキンドリング現象(燃え上がり現象)と説明されており、大脳辺縁系の関与が推測されています。(1992年、Bellら)
現時点では、化学物質を徹底的に避けて生活を送る以上の決定的な治療法は報告されていません。(2003年、Gibsonら)
化学物質過敏症の患者の血漿のメタボローム解析にて、アセチルカルニチンの低下、中鎖脂肪酸の増加が認めらたことから、カルニチンを摂取する治療の可能性を指摘しました。(2016年、加藤ら)
さらに短鎖脂肪酸の増加、アミノ酸の低下も指摘しています。(2018年、加藤ら)
ケトジェニックダイエットを行っていなくても、ケトン体をエネルギー源として生体活動は営まれています。短鎖、中鎖脂肪酸はダイレクトにミトコンドリアに入ってエネルギー源となりますが、長鎖脂肪酸はカルニチンによってミ トコンドリア内に輸送されます。
カルニチンの低下は、化学物質過敏症の類似疾患である慢性疲労症候群でも認められています。(2010年、Lavergneら)
化学物質過敏症は、慢性疲労症候群および線維筋痛症との併存が多いことが報告されています。(2007, Brown)
化学物質過敏症とインスリン抵抗性の関連が指摘されています。(2021年、Bierregaardら)
→グルコースからのミトコンドリア代謝に問題があり、脂肪酸からのケトン体が有意に使われた結果として、カルニチン不足、短鎖・中鎖脂肪酸の増加が起こっている可能性があります。
室内の観葉植物(アナナス、ドラセナ、スパイダープラント、カネノナルキ、)が揮発性有機化合物(VOC)を除去してくれることが報告されています。
揮発性有機化合物のホルムアルデヒドがシダ類の観葉植物によって効率的に除去されることが報告されています。(2010年、Kimら)
揮発性有機化合物のベンゼンとトルエンがセイヨウキヅタなどの植物によって効率的に除去されることが報告されています。(2006年、Yooら)
化学物質過敏症に、電気痙攣療法が有効であった症例(2010年、Elberlingら)、経頭蓋的パルス電磁波療法が有効であった症例(2014年、Tranら)および比較試験での有効性(2017年、Tranら)が報告されています。
検査法としては、静脈血液酸素分圧、咳感受性試験(カプサイシン負荷試験)、近赤外線モニターを使った負荷試験(2013年、Azumaら)、神経眼科的検査(電子瞳孔計検査、眼球運動検査、コントラスト感受検査)などがありますが、当院では実施出来ていません。
漢方薬である五苓散、葛根湯の有効であった症例が報告(2021年、大澤ら)、補陽還五湯加減と黄耆建中湯エキスが有効であった症例が報告されています。(2018年、土方ら)
空気清浄機やステロイドの有効性は報告されていません。