ミルクアルカリ症候群

ミルクアルカリ症候群(milk alkali syndrome)は、医原性に高カルシウム血症(hypercalcemia、血清総カルシウム濃度が10.4mg/dL以上)になる疾患です。

高カルシウム血症により、胃腸の平滑筋が収縮して便秘、腎血管が収縮して腎不全となります。腎不全では初期は乏尿ですが、数日から数週間で多尿となります。

高カルシウム血症の一般的な原因は副甲状腺機能亢進症と癌で起こってきます。(2006, Moysés-Neto)

副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌します。PTHは骨からカルシウムを血中に移動するとともに腎臓からの取り込みを増加させて血中のカルシウムを高くします。

Bertram Sippy が消化性潰瘍疾患の治療法を導入した 「シッピー養生法」は、胃酸によるさらなる侵食から胃潰瘍を保護するために、酸化マグネシウム、重炭酸ナトリウム、または次炭酸ビスマスなどの吸収性アルカリと組み合わせた牛乳とクリームの毎日の複数回投与で構成されていました。(1983, Sippy)

この治療により高カルシウム血症が多発してミルクアルカリ症候群と呼ばれましたが、その後は潰瘍の治療薬が一般化して、この症候群は世界から事実上姿を消しました。

しかし、最近はミルクアルカリ症候群の報告が増えています。これは、閉経後の女性の骨粗鬆症を予防および治療するために市販のカルシウム製剤が一般的に使用されているためであり、病因の変化により、症候群の名前をカルシウム・アルカリ症候群に変更することも提案されています。(2013, Patel)

日本では骨粗鬆症の治療でのカルシウム製剤および活性型ビタミンD類似体の服用によって起こってくることが報告されています。(2012, 作田)

骨粗鬆症の治療に使われるカルシウム製剤は、心血管リスクを上げることから論文ベースでは推奨されていません。

骨粗鬆症、変形性関節症、筋骨格疾患の臨床的および経済的側面に関する欧州協会 (ESCEO)および国際骨粗鬆症財団 (IOF) からの見解では、活性型ビタミンD類似体は、低カルシウム血症を招く副甲状腺機能低下症および 1α-ヒドロキシル化障害を伴う腎不全では必要ですが、一般的には高カルシウム血症になるリスクが懸念されています。(2015年、Cianferotti

海外の骨粗鬆症のガイドラインや論文では非活性型ビタミンDが推奨されています。一方で、日本では医薬品で合成の活性型ビタミンD類似体の摂取が勧められています。海外の医薬品の治療ガイドラインでは合成の活性型ビタミンD類似体は記載されていません。

非活性型ビタミンDは血中Ca濃度によってフィードバックが掛かりますが、活性型ビタミンDは掛かりません。

活性型ビタミンD類似体は、体内のビタミンD貯蔵量を最も反映する25ヒドロオキシビタミンDに貢献出来ません。またサプリの非活性型ビタミンDは半減期が15〜20日、医薬品の25ヒドロオキシビタミンD類似体は半減期が15時間~50時間と短いため、体内動態が安定しにくいです。

天然のビタミンD製剤の摂取は、1日2000IUが推奨されています。(2014年、Gallagherら