Keap1–Nrf2 システム
まとめ:Keap1–Nrf2 システムは、酸化ストレスや環境毒素に対抗する生体内の中心的役割を担っています。植物性化学物質はこのシステムを活性化することにより、抗酸化タンパク質、グルタチオン合成酵素、抗炎症性酵素の産生を促進させます。また、ミトコンドリアの機能を促進させます。
環境中には、様々な毒性物質があり、呼吸や食事で体内に取り込まれます。中には、放っておくとDNAやタンパク質などを酸化させ、様々な疾患の原因となるものがあります。これらの物質を解毒化するため、ストレス防御遺伝子が働くことが知られています。体内で毒性物質の悪影響が出る前に、迅速に応答する必要があります。
細胞内には、このような毒性物質に対するセンサーが備わっています。Keap1タンパク質を含むタンパク質複合体で出来ており、Keap1–Nrf2 システムと呼ばれます。細胞はストレスがない時から、ストレス防御遺伝子のスイッチをONにするNrf2という転写因子を合成していますが、そのほとんどはKeap1複合体によって分解されています。しかし、Keap1が毒性物質などのストレスを感知すると、Nrf2の分解は停止して、Nrf2の量が増加することで防御遺伝子のスイッチがONになります。普段から、使わないNrf2を合成し、Keap1複合体がすぐに分解してしまう、一見無駄とも思える方法ですが、ストレスに応答して素早く防御機構を発動させる仕組みであると考えられています。(2015, Suzuki)(2011, Taguchi)(2009, Kaspar)
選択的なオートファジーとKeap1-Nrf2系とが連動して、細胞における恒常性の維持を行っています。(2013, Komatsu)
Nrf2がミトコンドリアの機能と代謝を調節しています。Nrf2 欠乏により、ミトコンドリアの脱分極、ATP レベルの低下、呼吸機能の障害が生じることが確認されています。逆に、Nrf2が遺伝子を活性化することにより、上記の負の現象を逆転させることができます。(2013, Holmström)(2011, Kim)(2016, Holmström)
Nrf2活性化作用を持つ植物性化学物質としては、スルフォラファン、クルクミン、エピガロカテキンガレート(EGCG)、硫化アリル、レスベラトロール、リコピンなどがあります。(2008, Surth)