オメガ3脂肪酸と出血
まとめ:オメガ3サプリの摂取で出血しやすくなる場合があります。外科的処理の際は注意が必要です。
昔のグリーンランド・エスキモー人は、アザラシなどのオメガ3系脂肪酸が多い食事(平均1日13.7g)を主食として摂っており、心筋梗塞などの血栓性動脈硬化疾患が非常に少なく、出血傾向があると言われていました。
1980年にKromannらは、1800人のエスキモー人とEPA(下記の3つの主要なオメガ3脂肪酸の中のひとつです)摂取が少ないデンマーク人と比較して、心筋梗塞の発症率が低く、脳出血の割合が高い結果であったと報告しています。
それ以外にも、エスキモー人はてんかんの頻度が高く、がんの頻度は同程度ですが、真性糖尿病、甲状腺中毒症、気管支喘息、多発性硬化症、乾癬の頻度が低いことも報告しました。
1985年に平井らが、千葉県の漁村と農村でEPA摂取量の比較して、EPA摂取量は漁村2.6g(1日当たりの平均魚肉摂取量は256g)に対して農村0.9gと有意差を報告しました。また、アデノシン二リン酸(ADP)による血小板凝集閾値濃度は、漁村では6.6μM、農村では2.3μMと漁村のほうが高く、漁村で血小板凝集能の低下、出血時間の延長を認め、梗塞性心・脳疾患が少ないことを報告しました。
一方で、魚では無くサプリでオメガ3脂肪酸を摂取した場合についての報告も多くあります。
2002年にHellerらは,術後の患者への非経口栄養にてEPA摂取量を0.2g/kg/日まで増量しても出血傾向はなく、凝固系への影響はないと報告しています。
2017年にBegtrapらは、手術前のオメガ3サプリの中止の必要性を総論で認めていません。
2018年にJeansenらは、オメガ3サプリメントを1.5g/日を52週の服用でも、出血リスクを認めないことを報告しています。
2009年に中戸川らは、くも膜下出血後の脳血管攣縮予防を目的に,EPA 5700mg/日(EPA製剤1800mg+EPA含有栄養剤3900mg)を14日間投与したが、出血性合併症により投与を中止した症例はなかったと報告しています。短期間では影響がないことを指摘されています。
小まとめ:以上からEPA摂取量や摂取期間により出血性合併症や血小板凝集能、出血時間に影響が出ると考えられます。
国内で使われるオメガ3医薬品は下記の2剤です。
オメガ3脂肪酸は、多脂魚に多く含まれています。
週に3回ほど多脂魚を食べる習慣があれば、オメガ3脂肪酸の必要量は摂取出来そうです。
過去の論文から見ると、出血性疾患に繋がるリスクは問題なく、術前に中止は必須ではありませんが、実際の医療現場では厚生労働省の注意勧告通りに、術前は中止する方が無難です。