エピジェネティクスと食事

エピジェネティクスは、遺伝子の塩基配列は同じなのに遺伝子の発現が変わる現象のことです。1個の受精卵から様々な体細胞が作られて行く、主に胎児の発達を担う機構です。

エピジェネティックな目印には、DNAにつく目印(DNAメチル化)とヒストンにつく目印(ヒストン修飾)があります。

メチオニンから生成されるSアデノシルメチオニン (SAMe) がメチル基供与体として、DNAメチル化とヒストン修飾を行っています。

このメチレーション回路に関係する栄養素は、葉酸、ビタミン B12、B6 、B2、B3、セリン、グリシン、ヒスチジン、トレオニン、ベタイン、コリン、α-ケトグルタル酸(クエン酸回路の中間体)です。

これらの栄養素の不足があると、エピジェネティックな胎児の成長などに問題が生じます。エピジェネティクスは、遺伝子と環境要因の架け橋となる機構であると言えます。

妊娠時の母体の低タンパク質食、低栄養食の影響は、このエピジェネティックスに関係するメチレーション回路の問題で起こってきます。

「オランダの冬の飢餓」事件において、妊娠期によって飢餓の影響は異なり、妊娠初期に暴露された場合は心血管系疾患や認知症を、中期では腎機能や肺機能の低下が、そして後期ではインスリン抵抗性や2型糖尿病を発症しやすくなることが報告されています。(2012年、Josep C. Jiménez-Chillarónら)

このメチレーション回路によるエピジェネティクスの問題は、胎児だけでなく、子供の発達や大人の代謝にも関係しています。

グリシンとメチオニンは共に動物性タンパク質に多く含まれています。

グリシンは動物のコラーゲンの33%を占める非必須アミノ酸で、必須アミノ酸のトレオニンから合成することが出来ます。一方でメチオニンは必須アミノ酸で、どちらもメチレーション回路で重要な役割を果たしています。

レシチンはフォスファチジルコリンとも呼ばれ、約13%のコリンを含むリン脂質(リンを含む脂質)の一種で、細胞膜の主成分です。卵黄に多く含まれておりギリシャ語に由来して命名されています。またレシチンの働きは水と油を混ぜ合わせる乳化作用、酸化防止作用、保水作用などがあります。

コリンは、セリンとメチオニンから作られる必須栄養素であり、分類上は水溶性ビタミンとされています。

コリンは、アセチルコリン、リン脂質、メチル基供与体ベタインの前駆体として機能しています。