本態性振戦の栄養療法のヒント

2021年12月8日

まとめ:β-カルボリンアルカロイド(ハルマンなど)は、本態性振戦と似た震えを発症させる神経毒性化学物質です。

食事由来の外因性振戦物質のβ-カルボリンアルカロイドが、何らかの原因で代謝処理出来ないことが本態性振戦の根本原因のひとつです。肝臓でβ-カルボリンアルカロイドを代謝するシトクロム酵素を阻害する物質(アルコール、薬剤、香辛料)を中止して、酵素誘導する物質(薬剤、食物、ハーブ)を摂って酵素活性を上げる方法があります。

この代謝反応の触媒となる補因子・補酵素の材料である鉄、硫黄、ビタミンB2、ビタミンB3の不足があってはいけません。

β-カルボリンアルカロイドは、動物性タンパク質に多く含まれています。それ以外には、植物由来の食品(小麦、米、トウモロコシ、大麦)、飲料(ワイン、ビール、ウイスキー、日本酒)、および吸入物質(タバコ)に自然に少量存在します。(1991年のAdachiら1962年のPoindexter2008年のHeraiz

アルコール依存症および喫煙者の体内で高い濃度で存在することが知られています。(2013年のMoloudizargari

2005年にLouisらは、本態性振戦の患者の血中ハルマン濃度とハルマンを多く含む動物性タンパク質消費との関係を調べましたが、有意な結果は得られませんでした。本態性振戦患者の血中ハルマンの増加は、ハルマンの過剰摂取ではなく、ハルマンの代謝障害などの可能性を指摘しました。

2002年にLouisらは、本態性振戦の患者の血中でβ-カルボリンアルカロイドが増えていることを報告しました。

2010年にLouisらは、本態性振戦患者の血中のハルマンとハルミンを測定して、ハルマン/ハルミン比が、家族性本態性振戦>散発性本態性振戦>対照群の関係であることを報告しました。このことから、本態性振戦の患者の血中ハルマン濃度の上昇は、ハルマン(1-メチル-9H-ピリド[3,4-β]インドール)をハルミン(7-メトキシ-1-メチル-9H-ピリド[3,4-β]-インドール)に代謝する能力が遺伝的に低下したためである可能性を指摘しました。

2019年にOngらは総論で、本態性振戦の環境要因として、神経毒性化合物であるβ-カルボリンアルカロイドとエタノール、新しい危険因子として農薬と鉛への曝露を指摘しました。アルコールは震えを和らげる作用を持つ反面、小脳毒素として作用するので、危険因子と保護因子の両面を持つことが知られています。また、抗酸化物質の摂取、喫煙、カフェインは、保護因子になる可能性を示唆しました。

2012年にHandforthβ-カルボリンアルカロイドに誘発されるハルマリン振戦(本態性振戦の動物モデル)について考察しました。ヒトでは、CYP 1A2と2D6は、ハルマリンとハルミンを代謝する主要なシトクロム酵素であり、O-脱メチル化によってこれらを非振戦性のハルマロロールとハーモルに変換します。この酵素の活性が遺伝的に低い遺伝子多型が本態性振戦の発症に関係することを指摘しました。

O-脱メチル化(O-demethylation)の反応式は以下です。

シトクロムP450 1A2と2D6は、ヒト肝臓において主要な薬剤などの生体異物の代謝に関係する酵素です。

O-脱メチル化反応では、触媒として3つの補因子、鉄硫黄クラスター(2Fe-2S)、FAD、NADHを要求します。

これらの元となる鉄、硫黄、ビタミンB2、ビタミンB3が必要です。

これらの酵素はSSRIなどの様々な薬剤で阻害されて酵素活性が下がるため、SSRIの副作用として薬剤誘発性振戦を起こすことが知られています。(2008年、Arbaizarら

カレーの材料として使われるクミンやターメリックがCYP1A2を阻害することが報告されています。

CPY1A2は、タバコで酵素誘導されることが知られていますが、それ以外にもアブラナ科のブロッコリーと芽キャベツ、炭火焼肉、セント・ジョーンズ・ワート (St. John’s wort) によっても酵素誘導されて酵素活性が上がります。

本態性振戦の治療に使われる薬剤は、これらのシトクロム酵素に酵素誘導剤などとして作用して、酵素活性を高めるメカニズムで治療効果を発揮します。