てんかんの食事療法の変遷
てんかんのケトン食療法は、断食するとてんかん発作が抑制されることから、1911年に最初に提唱された食事法です。(1911年、Guelpa&Mrie)
脳のエネルギー源として、糖質の代わりにケトン体を人為的に活用できる状態にする食事法です。
カロリー計算で、糖質+タンパク質に対して脂質の比率を高くして、脂質中心の食事を行います。
ケトン比の計算が煩雑なこと、脂質中心の食事の継続が難しいことなどから脱落するケースが多いことが知られています。
その後、食事をより美味しくするために、中鎖トリグリセリド(MCT)ケトン食が導入されました。これは、MCTがカロリーあたりのケトン体生成性が高いため、食事によってタンパク質と炭水化物の量が増やすことが可能となります。(1971年、Huttenloherら)
MCTダイエットは、食事のカロリーの60%をMCTオイルから摂ります。
MCTダイエットでは胃腸の副作用が多いため、この副作用を減らすように設計された修正MCTダイエットでは、カロリーの30%をMCTオイルから、30%を一般的によく使われる長鎖脂肪酸から摂ります。(1989年、Schwartzら)
アトキンス食とは、アメリカのアトキンス氏が提唱した低糖質食のことで、体重減少を目的とする食事療法です。元々のアトキンス食では、炭水化物の1日摂取量を20g以下からスタートとして、体重が増加しないことを確認しながら、段階的に1日100g程度まで増やして行きます。
てんかんの治療に用いるのは、このアトキンス食の方法に修正を加えた修正アトキンス食療法で、1日の糖質を乳幼児では10g、成人では15~20gまで継続的に制限します。アトキンス食の導入期の食事をそのまま継続する方法が修正点です。それ以外のタンパク質やカロリー制限を必要としません。一方脂質に関しては、できるだけ多く摂ることが推奨されます。
これらの制限された食事療法では、子供よりも大人が順守するのが難しい傾向があります。青年(12〜18歳)と成人(> 18歳)の食事療法に関する1つのレビューでは、古典的なケトン食で10〜88%のドロップアウト率、修正アトキンス食で0〜63%のドロップアウト率が示されています。(2011年、Payneら)
近年、柔軟性と嗜好性の向上を目指して、てんかんに対する低グリセミック指数食(LGIT)が推奨されています。(2005年、Pfeiferら)血糖値を上げにくいグリセミック指数が50以下の炭水化物を、1日40〜60gを摂取します。カロリーの60%は脂肪から摂取します。(2011年、Payneら)
てんかんに対する低グリセミック指数食は、有効性が高く副作用が少ないことが報告されています。(2020年、Sondhiら)
LGITは、①グルコースがケトン体より優先して使われるために、糖質を摂取すると抗てんかん作用を持つケトン体が減少すること、また②ラットの動物実験で、高グルコース濃度が痙攣促進効果と関連しており、てんかん様活動は、グルコース濃度の増加によって促進され、減少によって抑制されることが報告されていること(2003年、Schwechterら)から、血糖値を上げにくい炭水化物をある程度摂取するという考えです。
ケトン性高血糖ではなく、非ケトン性高血糖がてんかん発作と関係していることが報告されています。(2009年、Moien-Afshariら)
LGITでも、脂質に関しては出来るだけ多く摂ることが推奨されおり、修正アトキンス食から若干変更が加えられた食事法です。
一方でガイドラインには入っていませんが、植物の抗てんかん作用についても様々な報告があります。
1980年にKromannらは、1800人のエスキモー人とEPA(下記の3つの主要なオメガ3脂肪酸の中のひとつです)摂取が少ないデンマーク人と比較して、心筋梗塞の発症率が低く、脳出血の割合が高い結果であったと報告しています。それ以外にも、エスキモー人はてんかんの頻度が高く、がんの頻度は同程度ですが、真性糖尿病、甲状腺中毒症、気管支喘息、多発性硬化症、乾癬の頻度が低いことも報告しました。
2021年にIsmailらは、150人のてんかん患者の食事を調べて、野菜の摂取量が少ない人は、多い人と比較して、発作の発生率が2.3倍高いことを報告しました。
2020年にDhirは、てんかんに天然ポリフェノールが有効である可能性を示唆しました。
伝統医学では、植物の様々な成分が抗てんかん作用を持つことが報告されています。(2013年のAbdollahiら、2011年のBumら)