難治性SIBOの治療
SIBO(small intestinal bacterial overgroth、小腸内異常細菌増殖)は、本来は大腸に比べて腸内細菌の少ない小腸に異常に腸内細菌が増殖した状態です。
小腸での発酵によって、お腹の張り、ゲップ、下痢(小腸内に水素ガスを発生する腸内細菌が多い場合)、便秘(メタンガスを発生する腸内細菌が多い場合)などを起こします。
IBSはローマIII基準からの症状による診断名であり、SIBOは病態からの診断名で、中身はほとんど同じです。
低FODMAP食で、IBSの50〜80%が改善し(2017年、Staudacherら)、特に下痢型のIBS(2015年、Raoら)で有効であることが総括されています。
この総論は、一定の割合で難治性のSIBOが存在することを示しています。
■難治性SIBOの治療
1.原因となる薬剤の検討
PPIなどの制酸剤、抗コリン作用を持つ抗鬱剤、抗ヒスタミン薬、抗パーキンソン治療薬、ブスコパンなどの胃腸薬、麻薬系鎮痛剤、その他に消化管の運動に影響を与える薬剤などを検討する必要があります。
2.原因となる食事の検討
SIBOの検査ではグルコースを負荷した後でのガスの発生を調べます。小腸での糖の発酵現象がSIBOです。SIBOの食事では、精製糖質を摂らないことが基本です。その上で、自分が摂取可能な炭水化物を探していきます。
ご飯、パン、麺を中心とした食事では、低タンパク食、低脂肪食となります。タンパク質や脂肪に反応して分泌される胃酸、胆汁酸、膵液の不足がSIBO招いている可能性があります。
プロテインに偏った食事内容が問題かもしれません。出来るだけWhole Foodで、肉、魚、卵などのタンパク質と脂肪を同時に摂る食事を心がけます。
食事回数を増やして、1回の食事量を減らす方法と、間欠的断食などで食事回数を減らす方法があります。
小麦に含まれるグルテンと乳製品に含まれるカゼインは、オピオイド様ペプチドに変化して、消化器官を麻痺させて、逆流性小腸炎などからSIBOを招くことからGFCFが原則的な食事療法になります。
3.即時型(IgE)食物アレルギーとのIBSの関係
低FODMAP食は糖質の話なので、アレルギーの原因となるタンパク質とは別次元の話ですが、食材そのものはパンなどのようにオーバーラップしています。
即時型食物アレルギーの90%以上は、卵、ピーナッツ、牛乳、大豆、ナッツ、甲殻類、魚、または小麦が原因です。食事性抗原に対するIgE応答は腸粘膜に局在している可能性があり、したがって、血清抗体レベルと相関していない可能性があります。(2012年、Maggeら)
即時型食物アレルギーが原因と考えられるIBS症状のある81人の患者を対象とした研究では、48人の患者が皮膚プリックテストの結果が陽性でした。しかし、副作用を引き起こしたと報告されている食品と、皮膚プリックテストの結果が陽性であった食品との間には、ほとんど一貫性がありませんでした。(1999年、Daineseら)
結腸内視鏡的アレルゲン誘発(COLAP)テストを利用して、結腸の粘膜下組織に注入された食物抗原に対する患者の反応を調べました。COLAP検査の陽性結果は、慢性腹痛のある個人の77%で発見され、そのうち74%がIBSの疑いのある診断を受けていました。応答部位からの生検は、肥満細胞と好酸球の数の増加を明らかにしました。疑わしい食品が患者の食事から排除されると、83%が症状の改善を報告しました。これらの患者は、正常な皮膚プリックテスト結果と一般的な食品抗原に対するIgE抗体の正常な血清レベルを示しました。(1997年、Bischoffら)
4.遅延型(IgG)食物アレルギーとのIBSの関係
遅延型(IgG)食物過敏性はIBSに関連している可能性がありますが、この問題に関する現在のデータは限られているため、臨床現場に適用することは難しいとされています。(2012年のMaggeら、2005年のHunterら)
ほとんどの除去食は、IBS患者の副作用に最も一般的に関連する食品、および症状を引き起こすと考えられる食品を少なくとも14日間除去します。臨床診療で実行されることはめったにありません。IBS患者の排泄食に対する反応率は15%から71%の範囲です。下痢が優勢な症状のあるIBS患者は、食物の有害反応の数が最も多く、排泄食に対する反応率が最も高くなります。(1998年、Niecら)
IBS患者の食物に対するIgG抗体の存在に基づいて除去食の有効性を評価しました。12週間後、除去食は偽食よりも症状スコアの10%の減少をもたらし、この所見は完全に準拠した患者では26%に増加したことが報告されています。(2004年、Atkinsonら)
IBSを併発している片頭痛患者のIgG抗体に基づく食物除去が、両方の障害の症状を効果的に軽減することが報告されています。(2013年、Aydinlerら)
小麦、牛肉、豚肉、子羊などの一般的な食品に対する血清IgG4抗体は、IBS患者群で上昇していたことが報告されています。(2005年、Zarら)
IBSの被験者と健常対照群の間で、食物および酵母に特異的な血清IgGおよびIgG4抗体に関して有意差はありませんでした。(2012年、Ligaadenら)
5.プレ・プロプロバイオティクス、食物繊維と発酵食品の摂取の見直し
大腸の腸内フローラには有益ですが、これらは大量に摂取するとSIBOを悪化させますので、総合的な視点での見直しが必要です。
6.抗菌ハーブによる治療
リファミキシンなどの抗生物質は腸内フローラへの影響が懸念されるため、オレガノ、グレープシードエキス、ベルベリン、ニームなどの天然ハーブを摂る方法があります。ダイオフ現象が起きる可能性がありますので、注意が必要です。
7.自己免疫疾患との関連
IBSなどの機能性胃腸障害を持つ人は自己免疫疾患の合併が多いことが報告されています。(2014年、Fordら)
下痢型のIBSの60%は、感染後過敏性腸症候群と呼ばれる自己免疫疾患であることが指摘されています。
8.腸カンジダ症との関連
以前は無関係と報告されていました(1992年、Middeltonら)が、近年は関連が指摘されています。(2021年、Sciavillaら)
9.口腔環境との関連
IBSと歯の喪失との関連(2015年、Esmaillzadehら)、口腔環境との関連(2021年、Nilchianら)が指摘されています。口腔内常在菌の問題からSIBOになる可能性があります。