逆アンガーマネジメント〜理論編

主に怒りっぽい方、キレやす方のためにアンガーマネジメント(怒りのコントロール)と呼ばれる治療があります。

実際の臨床場面では、怒りが出せない人の方が問題になるケースが少なくありません。

怒ることが苦手な人が、怒ることが出来るようになるための方法が、逆アンガーマネジメントです。

社会を生きていくためには、怒るオプションと怒らないオプションの両方の使い分け(闘争と逃走)が瞬時に出来る多様性が求められます。

短気は損気とも言いますが、何事もバランスで、怒るべき時に怒れない人は、後で自分自身が負荷を負いトラウマに苦しむことになります。また怒るべき時に怒らないと、相手へのフィードバックが出来ず、相手の学習機会を奪いますので、長い目で見ると両者が損をすることになります。

動物の闘争逃走反応は、人間でも全く同じ現象がより複雑に起こることが、近年の神経生物学によって明らかにされています。

長い動画ですが、大事な場面を切り抜くと以下になります。

殺されるという恐怖に続いて、一次反応として闘争逃走反応が起こります。

トラウマと言っても、色々なレベルがあって、殺される恐怖を感じる強いトラウマから、人間の場合はちょっとした嫌な出来事もトラウマになることがあります。

健康な神経システムでは、闘争逃走反応中に闘争反応と逃走反応の両方が、状況に応じて出てきます。

攻撃は最大の防御という言葉がありますが、この動画のように、逃げている途中でも攻撃する、攻撃している途中でも逃げることが、生き延びるための必須の能力です。

意識的に、考えてから攻撃したり、逃げたりするのではなくて、無意識的に攻撃したり、逃げたりする能力とも言えます。

一次反応としての闘争逃走反応で対応出来ない場合に、二次反応として死んだふりになる凍りつき反応が起こります。運良く生き残ることが出来れば、三次反応として全身を震わせる脱活性化を経て、もとの状態に戻ることが出来ます。これがトラウマおよびその回復の基本的なプロセスです。

人間の場合も、このトラウマのプロセスは全く同じ構造です。

野生動物にはトラウマがほとんど存在しませんが、人間にはトラウマがよく起こる理由は、大脳の発達によるトップダウン系の指令によって、上記のトラウマおよび回復プロセスが上手く機能出来ないからです。

トラウマに悩まされる、日常生活の不適応症状がある方は、下図のように人生におけるトラウマ体験が連鎖構造になっていることが多いです。

ポイントは、EMDRで言う養分を与える記憶、フィッシャーの中核的な恐怖、退行催眠、ホログラフィートークなど様々な心理療法で重視されている、初期の幼少期の鍵になるトラウマ記憶です。

子供の闘争逃走反応は、相手が自分より強大であるがために、闘争反応が学習によって使うことが出来ず、このトラウマ体験が繰り返さます。いわゆる虐待やネグレクトによって、容易に逃走反応から凍りつき反応に至るトラウマパターンが形成されてしまいます。これが複雑性ptsdの根底にある病態です。

感情面から見ると、恐怖だけが出て怒りが出ず、容易に解離に至る状態です。

これが、怒りが出せない方のパターン化した心理的および神経生物的なメカニズムです。

このモデルから考えると治療的なアプローチ方としては、闘争反応が出せるようにすること、解離後の脱活性化を促すトラウマセラピーの2つになります。