鉛(Pb)中毒

(2019年9月1日の記事を加筆修正しました)

まとめ:デトックス以外の栄養療法としては、ビタミンB6、ビタミンB12、亜鉛、Nアセチルシステイン、 緑茶(Epigallocatechin gallate)の補給があります。鉛中毒による酸化ストレスに対して、抗酸化物質(ビタミンC、Eなど)の有効性も指摘されています

■鉛の暴露

ヒトの鉛曝露は、消化管吸収または肺吸収のどちらかですが、経口摂取が最も重要な曝露経路です。

カルシウム欠乏症は、カルシウムの吸収を促進する腸内のカルシウム結合タンパク質であるビタミンDとカルビンジン-Dを活性化します. しかし、カルシウムが十分な量で利用できない場合、鉛やその他の微量金属がカルシウムの代わりに吸収されます。(2011, Keil)

吸収後、鉛の 99% は赤血球のヘモグロビン部分に結合し、血管系を介して軟部組織 (肝臓と腎臓)、骨、毛髪に循環します。鉛の血中半減期は約 30 日で、赤血球の半減期と一致しています。そのため、血中鉛レベルの上昇は比較的最近の鉛曝露を示しています。(2005, American Academy of Pediatrics Committee on Environmental Health)

全身循環中、鉛は主に∂-アミノレブリン酸の阻害を通じてヘム生合成経路を遮断します。(下図)これは、血中鉛レベルが 5 μg/dL を超えると観察されます。(2005, Barbosa Jr)

人の一生を通じて体内に入る鉛の約 96% は骨と歯に蓄えられ、骨での半減期は約 32 年です。歯茎のラインに「バートニアン ブルー」ラインとしても知られる「リード ライン」の出現は、慢性的な鉛中毒を示しています。(2009, Arruda-Neto)

■鉛中毒の病態

体内に入った鉛は酵素のチオール基(SH基)と強固に結合し、チオール基を有する種々の酵素の働きを阻害します。

チオール基を持つものとしては、αリポ酸、グルタチオン、NAC(Nアセチルシステイン、グルタチオンの前駆体)などがあります。

特に造血組織で、ポルフォビリノーゲンシンターゼ(アミノレブリン酸脱水酵素)のSH基に本来は亜鉛が結合するところに鉛が結合して貧血(鉄芽球性貧血)を起こすことが典型例です。

鉄芽球性貧血では、赤血球における鉄代謝・ヘム合成にかかわる異常により鉄の利用が障害され、ヘム鉄を持つタンパク質の合成は阻害されるため、ミトコンドリアに鉄が沈着し、骨髄において、核の周囲に環状に鉄が沈着した赤芽球(環状鉄芽球)が現れます。

小球性と正球性が混在する二相性貧血となります。

鉄芽球性貧血では、ヘム合成が出来ないので、鉄は余っているが、ヘム鉄が少ないために、血清鉄とフェリチンは上昇しますが、小球性貧血でMCVが低値になります。(鉄欠乏性貧血も小球性貧血ですが、フェリチンが低値になります。)

鉄芽球性貧血では、ビタミンB6が有効なケースがあります。アミノレブリン酸合成酵素の補酵素のビタミンB6を補給して、合成経路を促進させる治療法です。ビタミンB6は根治療法ではありませんので、医学的にはビタミンB6が無効な場合は、他に治療法はありません。

代謝経路から、ビタミンB6以外にもビタミンB12の不足が起こって来ます。

5-ALA脱水酵素の補因子の亜鉛に鉛が入れ替わり失活することが原因なので、大量の亜鉛の補給によってこの活性が上がることが動物実験では示されています。(2003, Basha)(1978, 友国)

鉛中毒予防規則で実施すべき項目労働安全衛生法の一部改正(平成元年10月1日施行)で、必ず実施すべき項目と、医師が必要と認めた場合に行う項目が決められています。前者には血中鉛と尿中デルタアミノレブリン酸が、そして後者には赤血球中プロトポルフィリンがあり、鉛中毒ではいずれも上昇してきます。

鉛中毒では、尿中デルタアミノレブリン酸と酸化ストレスマーカーである尿中8-OHdGが上昇することが報告されています。(2020, Ibrahem)

1939年より鉛中毒に対するビタミンCの有効性が指摘されています(1939, Holmes)が、効果がはっきりしないとも言われています。(2000, Houston)

動物実験では、鉛中毒による酸化ストレスに対するビタミンC、Eの有効性が指摘されています。(2012, Ayinde)(2011, El-Neweshy)(2006, Bashandy)

鉛中毒による男性不妊の原因である活性酸素種 (ROS) 誘発 DNA 損傷に対するビタミンCの保護作用を提供する可能性があります。(2012, Vani)

緑茶成分のEpigallocatechin gallateが、鉛中毒に対して保護的に働くことが報告されています。(2002, Chen)(2021, Zwolak)(2016, He)

Nアセチルシステイン、αリポ酸、ケルセチン、ビタミン、フラボノイド、ハーブなどの抗酸化物質は、特に鉛による毒性と酸化ストレスの予防と治療への有効性が指摘されています。(2012, Flora)

ヒト体内ではグルタチオンが鉛の解毒に関与していることが示唆されています。(2000, Hunaiti)

鉛の亜急性職業暴露の際は、グルタチオンおよびグルタチオン関連酵素が消費されることが報告されています。(2016, Dobrakowski)

アメリカの子供の鉛中毒では、血中鉛濃度が 5 µg/dL (50 ppb) 以上の子供の鉛暴露源を特定するために、環境調査が実施されます。塗料、ハウスダスト、水、子供の遊び場からの土壌、アンティーク家具、おもちゃ、民族的民間療法、および輸入食品、化粧品、陶器、ベビーベッドなどの家具の劣化したペンキ、育児環境または家族の家からの粉塵を調べます、(2016, Lanphear)

ALAはGABAと構造が類似しており、鉛過剰によりALAが蓄積すると、GABAの産生が抑制されます。