メトホルミンによる乳酸アシドーシス(MALA)

まとめ:メトホルミンによる乳酸アシドーシス(metformin-associated lactic acidosis, MALA)は、主にNAD+の不足で、アルコール摂取などをトリガーとして発症します。

メトホルミン服用中に、飲酒や大量服薬を契機に乳酸アシドーシスを発症することが報告されています。(2006, 須田)(2021, 戸塚)(2019, 大和田)(2016, DeFronzo)

■現在のメトホルミンによる乳酸アシドーシスの発症機序

メトホルミンを含むビグアナイド系薬剤は、糖尿病の治療に 50 年以上使用されており、がん治療薬としての有望性が示されています。メトホルミンの効果の中心は、肝臓の糖新生によるグルコース産生の強い抑制ですが、その正確な作用メカニズムは謎のままです。(2014, Baur)

1.メトホルミンは、ミトコンドリアの呼吸鎖の電子伝達鎖の複合体 I を阻害します。これは、ATP/ADP 比を低下させ、ホスホグリセリン酸キナーゼ反応の平衡をシフトしてグルコース合成を抑制にすることで(2000,Owen)(2000, El-Mir)、乳酸産生に傾きます。

2.その後、メトホルミンがエネルギーセンサーのAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を介して作用することが報告されました。(2001, Zhou)

3.その後さらにいくつかの研究で、メトホルミンが AMPK とは独立して機能できることが示されましたが (2010, Foretz)(2013, Miller)、

4.最近の報告では、AMPK がメトホルミンのいくつかの効果に必要であると報告されています。(2013, Fullerton)

5.さらに、メトホルミンによって誘導される AMP の蓄積は、アデニル酸シクラーゼを直接阻害し、グルカゴンによる糖新生の誘導をブロックすることで(2013,  Miller)、乳酸産生に傾くことが報告されました。

6.最新の報告では、メトホルミンの直接標的であるミトコンドリアのグリセロール-3-リン酸脱水素酵素 (mGPD) を介して、グリセオールからグルコース産生する糖新生を阻害して、肝臓の細胞質のNADH(還元型)/NAD +(酸化型)比を低下させ、乳酸の処理能力を低下させます。(2014, Madiraju)(2014, Baur)

乳酸アシドーシスは2つのカテゴリーに分類されています。A型乳酸アシドーシスは、酸素がない状態での解糖による乳酸の蓄積に起因します。MALA に代表される B 型乳酸アシドーシスは、酸化または糖新生による乳酸のクリアランス(乳酸をピルビン酸に変換)が低下しているときに乳酸産生が増加する状態で発生します。(2016, DeFronzo)

動物と人間の研究は、メトホルミンが肝臓で作用し、ミトコンドリアのレドックスシャトルをブロックすることで糖新生を阻害することを示しています.(2019, Flory)

■ビタミンB1の欠乏

アルコールからアセトアルデヒドへの代謝の補酵素ビタミンB1で大量に消費されます。

ビタミンB1はTCA回路の複数箇所で必要な補酵素でもあります。

■アルコールの影響

アルコールからアセトアルデヒド、酢酸への代謝で補酵素ビタミンB3のNAD+が大量に消費され、NADH(還元型)が蓄積します。

アルコールが代謝された結果で産生されるアセチルCoAが増えて、TCA回路に負荷を掛けます。