ブレインフォグ(brain fog)
ブレインフォグは、永続的な認知障害の症候群であり、注意力、集中力、記憶力、情報処理速度、実行機能の障害を特徴としています。
ブレインフォグは、抗がん剤に伴って見られるケモフォグ(2010, Aluise)や自己免疫疾患に伴って見られること(2015, Mackay)が報告されています。
新型コロナウイルス感染症と診断された2696 人の患者の中で、1680 人 (62.3%) が新型コロナ後遺症でした。その中でのブレインフォグは、194 人 (7.2%) の患者によって報告されました。(2022, Asadi‐Pooya)
ロングコビットと呼ばれる新型コロナ後遺症のレヴューによると、記憶障害が18%、集中困難が26%、混乱が3%に認められます。(2021, Michelen)
ブレインフォグがPOTS(姿勢性頻脈症候群)に伴って発症することが多いことが指摘されています。(2013, Ross)
ME/CFSに伴うブレインフォグは、機能不全の β2アドレナリン受容体および血管または内皮の機能不全の存在下での過度の交感神経血管収縮による脳血流 (CBF) の減少から生じる可能性があります。(2018, Wirth)
ME/CFSに伴うブレインフォグの原因としては、β2アドレナリン受容体の機能不全によるブラジキンの分泌が、血液脳関門 (BBB) に対する微小血管透過性を亢進させて、潜在的に頭蓋内圧を上昇させるためである可能性があります。(2000, Abbott)
新型コロナ後遺症のブレインフォグについて、6つの可能性が指摘されています。①呼吸器系における SARS-CoV-2 に対する免疫応答が神経炎症を引き起こす可能性があります。これは、脳内のサイトカイン、ケモカイン、および免疫細胞の輸送を増加させ、常在ミクログリア、脳と脳の境界にある他の免疫細胞の反応状態を誘発します。②頻度は低いですが、SARS-CoV-2 が神経系に直接感染する可能性があります。③SARS-CoV-2 は神経系に対する自己免疫反応を引き起こす可能性があります。④エプスタイン-バーウイルスのような潜在的なヘルペスウイルスの再活性化は、神経病理学を引き起こす可能性があります. ⑤脳血管疾患および血栓性疾患は、血流を妨害し、血液脳関門機能を妨害し、さらなる神経炎症および/または神経細胞の虚血に寄与する可能性があります。⑥重度の COVID-19 で発生する肺および多臓器不全は、神経細胞に悪影響を与える可能性のある低酸素血症、低血圧、および代謝障害を引き起こす可能性があります。(2022, Monje)
神経炎症だけでも、グリア細胞および神経細胞の調節不全を引き起こし、最終的には、認知および神経精神機能に悪影響を及ぼす神経回路機能障害を引き起こす可能性があります。(2021, Gibson)(2022, Henn)
3万人規模のMRI検査にて、新型コロナ感染症によって特定の領域に脳萎縮が起こることが報告されています。特に重度の患者は、広範囲の脳萎縮が起こります。(2023, Zhou)
甲状腺機能低下症で甲状腺ホルモン補充療法を受けている方の一部にブレインフォグが発症することが報告されています。(2022, Ettleson)(2022, Samuels)
新型コロナ後遺症でブレインフォグを呈する患者では、脳のPET検査にて帯状皮質の機能不全があることが報告されています。(2022, Hugon)
■抗サイトカインなどの様々な治療法
ルテオリンが新型コロナ後遺症のブレインフォグ(brain fog)へ有効性であることが指摘されています。(2015, Theoharides)(2021, Theoharides)
低用量ナルトレキソンは、新型コロナ後遺症の罹病期間は平均11ヶ月ですが、それを2ヶ月に短縮することが出来たことが報告されています。測定された7つの症状の中で、気分の改善以外の、日常生活動作の制限、エネルギー レベル、痛みのレベル、集中力のレベル(brain fog)、睡眠障害が改善されました。(2022, O'Kelly)
低用量のナルトレキソンはミクログリアの活動を阻害します。ミクログリアは中枢神経系の免疫細胞であり、刺激されると、痛み、疲労、認知機能障害 (brain fog)、 睡眠、および気分障害に関連する炎症性産物を生成します。低用量のナルトレキソンは、ミクログリア細胞に見られるToll-like受容体を阻害します。その結果、炎症性物質の産生が減少し、ブレインフォグなどの症状が改善されます。(2007, Watkins)
メチレンブルーは、脳血液関門を容易に通過して脳内に移行し(2000, Peter)、抗癌剤によるブレインフォグの治療に有効であること(2000, Perglims)から、新型コロナ後遺症およびワクチン後遺症のブレインフォグへの有効性が期待できます。
イチョウ葉エキスのロングコビットのブレインフォグに対する有効性が報告されています。(2022, Kawakami)
ブレインフォグの患者には、乳酸アシドーシスおよびSIBOが多く合併しており、抗生物質やプロバイオティクスの中止で症状が改善することが指摘されています。(2018, Rao)
セリアック病および非セリアック型グルテン過敏症ではグルテン誘発性ブレインフォグが起きることが知られています。(2017, Yelland)(2020, Croall)
新型コロナ後遺症のブレインフォグでは、定量脳波(QEEG)に変化が見られました。(左半球と比較した右半球のシータ波、アルファ波、および SMR波の相対的な増加。両半球におけるベータ 2 対 SMR の顕著な増加。左半球のベータ 1 の増加。SMR値の減少)脳波のトレーニングのニューロフィードバックによる治療の可能性が指摘されています。(2022, Kopańska)