線維筋痛症に対する漢方治療

まとめ:線維筋痛症の漢方治療は、附子を使う方法と、活血化瘀薬を使う方法があります。エキス剤では、八味地黄丸、桂枝加朮附湯が有効です。

線維筋痛症のメタ解析では、プレガバリン、デュロキセチン、ミルナシプラン、アミトリプチリンは、現在の第一選択処方薬ですが、効果は不十分でした。実質的な利益を経験すると予想される患者はごくわずかで、ほとんどの患者は有効性の欠如または忍容性の問題のために治療を中止します。多くの薬物治療は限られた研究を経ており、否定的な結果が出ています。(2014, Hauser)

線維筋痛症(FMS)に対する煎じ薬(漢方/中薬の煎じ処方)の臨床研究は存在しますが、ほとんどが症例報告・小規模試験・非盲検のRCTが中心で、エビデンスはまだ十分ではないというのが現時点での総論です。症状の個別性が極めて高い領域(FMS)なので、再現性・一般化には限界があります。(2010, Cao)

完治例の症例報告。FMSは「虚実夾雜」が典型であり、肝郁脾虚・阳気不足・湿痰瘀血が重なった病態とする。治療では「补益正气/扶正祛邪」「疏肝健脾」「祛湿通络」「活血化瘀」「安神助眠」を統合すべきと強調。柴芍舒筋汤加减」構成例:柴胡30g/白芍30g/白术30g/茯苓30g/当归30g/川芎15g/黄芪15g/香附10g/木瓜12g/伸筋草15g/烫狗脊10g/地龙10g/茯神15g/夜交藤15g/炙甘草15g。症状に応じて「干姜10g・肉桂6g・黄芪増至30g・延胡索15g」など加味。最後に中医薬による治療は臨床上有益な可能性があるが、辛燥峻猛な薬の多用や外邪の除却ばかりに偏ると正気を損ねるため慎重に運用すべき。また、生活養生(适度運動・飲食調整・保温・避風寒)を併用することを述べている。(2023, 钟敏)

線維筋痛症は、中医学では線維筋痛総合症と呼ばれます。線維筋痛症148例を中医学的に解析した論文があります。弁証を3つに分けて肝腎不足(16.9%)、脾虚湿蕴(95.3%)、肝郁化火(98.6%)としています。(2022, 郭子嘉)

線維筋痛症38例に対して、小薬強活処方(Xiaoyao Qianghuo Chushi decoction、柴胡、白芍、当帰、川芎、威靈仙、独活、防風、甘草、生姜、大棗)と酸棗木瓜三七薬酒(Suanzao Mugua Sanqi Medicinal Liquor、酸棗仁、木瓜、三七、当帰、川芎、枸杞子、杜仲、牛膝、枳実、甘草)を併用して有効であった。(2008, Yang)

原発性線維筋痛様症候群(primary fibrositis syndrome)とされる臨床群に対し、方剤 Ding Tong Tang(定痛湯、川芎、当帰、独活、防風、羌活、牛膝、甘草、地黄、桂枝、白芍、細辛、乾姜)と鍼を併用し、臨床症状の改善を観察した。(2004, Li)

線維筋痛症に対して葛根湯に蒼朮(ソウジュツ、去風湿、健脾)と附子(散寒止痛)を加味した漢方治療の有効性を報告しています。線維筋痛症は、ストレス、感染、外傷などの外的要因および死別、離婚、経済的困窮、解雇などの内的要因で発症することと、瘀血の原因であるストレス、過食、肉食、動脈硬化、内出血、打撲、運動不足との類似から、線維筋痛症は瘀血病態であると考察しています。(2019, 村井)(2009, 藤永)

瘀血:血瘀とも言う。瘀とは淀んでいる状態で、血液が停滞して流れないこと。

3つの概念があり、①一種の病理産物である。気虚、気滞、血寒、血熱、外傷などはすべて血行を悪くして瘀血を生じる。②発病因子。瘀血を生じると、血液の滋養作用を失うだけでなく、全身および局所の血行に影響を及ぼして難病を引き起こす。③一種の病証。

症状として、①刺すような痛み(刺痛)、夜間痛、固定痛、②舌、顔、身体所見、出血は暗紫色。

治法は、活血化瘀。血脈を疎通し瘀血を消散させる薬物を活血化瘀薬という。活血化瘀薬を用いる際は、気滞を消除する行気薬(陳皮、厚朴など)を同時に用いる。活血化瘀薬としては、川芎、鬱金、莪朮、丹参、鶏血藤、桃仁、五霊脂などがあります。

方剤は活血化瘀剤と言いますが、疎経活血湯(桃仁、川芎)、桃核承気湯(桃仁など)、桂枝茯苓丸(桃仁など)、温経湯(川芎など)などがあります。

入浴などの温熱刺激で症状が悪化する線維筋痛症に白虎湯加味方の有効例が報告されています。(2009, 橋本)

白虎湯加味方:石膏(清熱薬)30g、知母(清熱瀉火)8g、粳米(こうべい、補気)9g、桂皮4g、甘草2g、人参3g

清熱作用のある生薬を使って温熱刺激を抑制します。

十味剉散の線維筋痛症に対する有効例が報告されています。(2020, 宮西

十味剉散:芍薬(清熱解毒)3g、茯苓(利水滲湿)6g、当帰(助陽)4g、川芎(理血)3g、白朮(養血)3g、熟地黄(清熱涼血)1.5g、防風(散風解表)2g、附子(散寒止痛)1g、桂皮(散寒)2g

十味剉散に似た大防風湯、四物湯、茯苓飲の3つのエキス剤を用いて、慢性疼痛患者の改善例が報告されています。(2009, 熊野)

桂枝二越婢一湯加苓朮加防已黄耆湯葛根および甘草附子湯の著効例が報告されています。精神症状がある線維筋痛症の患者に甘草附子湯の適応の可能性があります。(2007, 小暮)

桂枝二越婢一湯加苓朮加防已黄耆湯葛根:桂皮3g、芍薬(清熱解毒)3g、甘草3g、生姜(辛温解表)1g、大棗(補益)4g、麻黄(辛温解表)3g、石膏(清熱薬)5g、茯苓(利水滲湿)5g、蒼朮(去風湿)5g、防已(利水滲湿)5g、黄耆(補気)5g、葛根(辛涼解表)3g

甘草附子湯:甘草3g、白朮(養血)6g、桂皮(散寒)4g、白河附子(散寒止痛)2g

線維筋痛症に対して通脈四逆湯(乾姜9g,甘草4g,烏頭6g)を処方後、ほとんどの症状の軽減がみら、複雑局所疼痛症候群(CRPS) 発作には大烏頭煎(烏頭1g,蜂蜜10g)の頓服が有効であった症例が報告されています。烏頭・附子は、寒冷を自覚し、他覚的にも強い冷えが存在し痛みや痺れが強い場合に適応があると考えられます。(2015, 伊関)

線維筋痛症の症例報告にて、弁病を痺証として、化瘀止痛の効能のある桃仁と莪朮を使って有効であった2症例が報告されています。(2019, 木田)(2016, 木田)

線維筋痛症の症例報告にて、弁病を痺証として、桂枝、芍薬、牡丹皮、桃仁、当帰、牛膝、川芎、延胡索、紅花、蒼朮、茯苓、附子、柴胡、枳穀、生姜、大棗、炙甘草での寛解例を報告している。雨が降ると調子が悪いことから、蒼朮と茯苓を増量して奏効した。(2021, 田中)