男性型脱毛症(AGA)の栄養療法
男性脱毛症の治療は、男性ホルモンの代謝(テストステロン→ジヒドロテストステロン)だけでほとんど議論されています。
男性ホルモンの最終産物であるジヒドロテストステロンは、髪の元になる毛母細胞へと栄養を送る毛乳頭細胞の男性ホルモン受容体に取り込まれて、毛母細胞の働きを低下させます。髪の成長サイクルに悪影響を及ぼすシグナルを出し、成長期が短縮されることで、太くて濃い健康な髪が生えにくくなり脱毛症となります。
ジヒドロテストステロンは、5αリダクターゼによってテストステロンから合成されます。5αリダクターゼを阻害する薬剤(デュタステリド、フィナステリド)は、ジヒドロテストステロンの増加を抑制するので男性脱毛症の治療薬として使用されています。
5αリダクターゼを阻害する天然の植物抽出物としてノコギリヤシ(Saw Palmetto Berries)があり人気のあるサプリとして販売されています。(2009年、Murugsumdrum)前立腺肥大による夜間頻尿にも使われます。
2020年にBrasinoらは、脱毛に対して保護作用を持つ植物について総括しました。
亜鉛、イソフラボンには、5αリダクターゼの活動を抑制する効果があり、これらの栄養素を摂取することによってジヒドロテストステロンの発現を抑えられる可能性があります。
さらに、亜鉛は髪の毛の主成分であるタンパク質(ケラチン)の合成に欠かせない要素のひとつでもあります。イソフラボンは、女性ホルモンと似た働きを持ち髪のハリとツヤを与えるなど、髪のケアにも役立ちます。
プロゲステロンは、毛包のレベルで5-αレダクターゼを阻害して、テストステロンのジヒドロテストステロンへの変換を減少させます。(2007年、Randallら)
男性ホルモンの代謝経路には、もうひとつの男性ホルモンから女性ホルモンを作る経路があります。
この経路を活性化することによって、脱毛に関係する男性ホルモンと増毛に関係する女性ホルモンの比率を変えることが出来ます。男性ホルモンの最終産物であるジヒドロテストステロンの生産量を減らすことも出来ます。
男性ホルモンを女性ホルモンに代謝する酵素がアロマターゼです。
アロマターゼはシトクロームP450のひとつで、構造にヘム鉄を持っており補酵素としてビタミンB3を要求します。性腺組織や脂肪細胞だけでなく、毛包や皮膚や脳に存在することが報告されています。
皮膚および髪の毛に必要な栄養素は以下になります。
髪の毛は、実は皮膚の一部が変化したもので、髪の成分は、皮膚や爪と同じケラチンというタンパク質から出来ています。
ケラチンには動物性タンパク質に多く含まれるメチオニンから合成されるシスチンや、必須アミノ酸のチロシンが多く含まれています。
シスチンやチロシンは、青魚、大豆、牛肉、卵などに多く含まれています。
2020年にPhamらは脱毛症に対して、抗炎症食材を多く含む地中海式の食事だけでなく、タンパク質や大豆が豊富な食事の重要性を指摘しました。また、セリアック病に合併する円形脱毛症ではグルテンフリーダイエットが有効であること、低カロリー食および水銀の多い魚を多食すると脱毛症のリスクが上がることを報告しました。
男性型脱毛症に使われるサプリメントのまとめが報告されています。ビタミンA、B、C、D、Eおよび鉄、亜鉛、セレンが重要です。(2020年、Ashiqueら)
男性型脱毛症に対してメラトニンの有効性が指摘されています。(2004, Fisher)その作用機序としては、ミトコンドリアの恒常性を調節してATP産生を改善し、アポトーシスを抑制し、表皮を修復し、毛包の成長を促進することが総括されています。(2019, Rusanova)