こむら返りとケトン体
まとめ:夜間のこむら返りは、糖質制限などによるケトン体の生成に伴って起こってきます。対策は、①ロカボ、特に夕食時に複合炭水化物の摂取、②寝る前のストレッチ、③マグネシウムの摂取です。
こむら返りは、ケトン食療法や糖質制限を行っている場合に、副作用として起こりやすくなることが報告されています。(2008年のLiuら、2018年のShilpaら、2019年のFinstelerら)
その他には、妊婦(2016年、Zhouら)、子供(1999年、Leungら)にこむら返りが起こりやすく、時間帯としては夜間に起こりやすいことが知られています。
これらはいずれも、体内にケトン体が増えやすい状態です。
一般的に妊娠中はケトン体質になります。筋肉量の少ない子供はアセトン血性嘔吐症になりやすいです。筋肉と肝臓に蓄えられたグリコーゲンを消費しきるとケトン体が産生されるため、夜間とくに明け方にケトン体が上昇します。
一方で、肝硬変などの肝疾患(2013年、Mehtaら)、高齢者(2002年、Butlerら)でも、こむら返りはよく観察されます。
肝疾患では肝臓でケトン体を生成しますので、ケトン体の生成能は低下します。また、加齢と伴にケトン体生成は減少します。(2016年、Ciavardelliら)
肝疾患や高齢者では、フレイルなどのため体内に貯蔵するグリコーゲン量が少なくなるために、夜間にグリコーゲンが枯渇しやすくなり、ケトン体がより生成されやすくなるのではないかと考えます。
一般成人では、体内のグリコーゲンは250gは筋肉に、100gは肝臓に蓄えられています。
夕食後に、夕食の中に含まれている糖質由来のグルコースを使い果たすと、次に体内に蓄えられたグリコーゲン由来のグルコースを消費します。
グリコーゲンの蓄えが尽きると、次に脂肪を分解して、ケトン体が生成されます。
ケトン体は酸性のために、血液が酸性に傾きます。血液のpHは厳密に維持されているので、アルカリミネラルであるマグネシウムが筋肉内から血液中に移動して、筋肉中のマグネシウム濃度が下がり、こむら返りが起こると考えます。
こむら返りを防ぐためには、マグネシウムの摂取の有効性が報告(2002年、Proffeら)されていましたが、最近はマグネシウムの有効性を認めない報告(2020年のGarissonら、2021年のMoretti)が出されています。
マグネシウムを摂取して、血清マグネシウムをある程度上げていたとしても、明け方に急激にケトン体が体内で生成されて、血液が酸性に傾く現象に対して、筋肉中のマグネシウムが血中に引っ張られて、筋肉内のマグネシウム濃度が急激に下ることは避けられないので、こむら返りに対して、マグネシウムの摂取が有効ではないのでないかと考えます。
以前はこむら返りに対するストレッチに否定的な報告(2005年、Koppinら)もありましたが、近年は寝る前のストレッチなどの運動の有効性が報告されています。(2012年のHallegraeffら、2021年のHawkeら)