低タンパク食 vs 高タンパク食
まとめ:推奨タンパク質摂取量は、標準量(1.0g x 体重)が目安で、少なすぎても極端に多すぎてもよくありません。
カロリー制限食で寿命伸びるという話がありますが、これはタンパク質制限、特に必須アミノ酸のメチオニンやBCAAを制限することで、寿命が伸びることが動物レベルで報告されています。
生物の生存の歴史は、飢餓との戦いの歴史です。その時の環境の栄養源に適応するために、生物には栄養素のネットワークである栄養感知経路によって、成長・代謝・老化などの細胞活動が調整されています。(2019年のKitadaら、2019年のBrandholstら、2015年のSolon-Bietら)
身体にとって最も大切な必須アミノ酸が不足した場合は、極端な不足であれば窒素死に至ります。
しかしある程度の不足であれば、この栄養感知経路が反応して、オートファジーの促進、糖代謝、脂質代謝の改善、抗酸化・抗炎症作用が促進されて、最終的に長寿に繋がります。
■人を対象とした研究報告
2007年にTichopoulouらは、ギリシャにおける約13万の大規模調査で、炭水化物が少なくタンパク質が多い食事の長期摂取は、総死亡率の増加と関連していることを報告しました。
2007年にLagiouらは、スウェーデンの中年女性の約4万にを対象とした大規模調査で、低炭水化物と高タンパク質の摂取を特徴とする食事は、女性の総死亡率、特に心血管系死亡率の増加と関連していることを報告しました。
2012年にNilssonらは、スウェーデンの37,639人の男性(1460人の死亡)と39,680人の女性(923人の死亡)を対象とした大規模調査で、低炭水化物と高タンパク質の摂取を特徴とする食事と死亡率の間の明確で一般的な関連性がないことを報告しまいた。
2013年にNilssonらは、スウェーデンの62,582人の大規模調査で、低炭水化物と高タンパク質の摂取を特徴とする食事と一部の癌による死亡率の相関を報告しています。
2014年にLevineらは、米国での50歳以上の成人6,381人を対象とした調査で、50歳〜65歳で高タンパク食(1日90g以上)を摂ると全死亡率と癌による死亡率が上昇するが、66歳以上で高タンパク食(1日90g以上)を摂ると全死亡率と癌による死亡率が低下することを報告しました。高タンパク食では両方の年齢層で、糖尿病による死亡率が5倍に増えることも報告しています。
高タンパク食を摂取している人は、肥満や2型糖尿病などの代謝性疾患を発症するリスクが高くなります。(2010年のHalkjæretalら(欧州)、 2010年のSluijsら(欧州)、 2013年のVergnaud ら(米国))
小括:高タンパク食を問題視する研究は、高タンパク食民族である欧米由来のものしかありません。
主食文化があり低タンパク食民族であるアジアからの報告はありません。
■タンパク質の最適量について
2016年にCouteurらは、長寿で有名な沖縄の伝統食は、食事からのエネルギーは、9%(1日約45g)のタンパク質と85%の炭水化物から得られます。この比率は、最近の老化の動物研究で寿命を最適化することがわかっている値(タンパク質:炭水化物=1:10)と非常に似ています。
長寿食として有名な地中海式ダイエットでも、同量かそれ以上のタンパク質量(エネルギー換算で15%)を想定しています。
2018年に石川らは、日本人は、サルコペニアや虚弱を予防するために必要なタンパク質が足りないことを報告しています。
2018年にTen Haafらは、オランダの高齢者で同様の報告をしています。
2014年にLevineらは、米国での50歳以上の成人6,381人を対象とした調査で、66歳以上で高タンパク食(1日90g以上)を摂ると全死亡率と癌による死亡率が低下することを報告しています。
2015年にDeerらは、高齢者のサルコペニアの防止には推奨標準量以上のタンパク質摂取の必要があることを総論で述べています。
小括:人を対象とした長寿研究でも、老化の動物研究でも、寿命を最適化するタンパク質量は、推奨標準量(1.0g x 体重)とほぼ同じです。日本でも欧米でも高齢者のタンパク質不足が指摘されています。