グルテン失調症の意味するところ

グルテン失調症は、小麦に含まれるタンパク質であるグリアジンに対する抗グリアジン抗体を持ち、小脳性の失調症状が主症状の自己免疫疾患です。この抗体が小脳のプルキンエ細胞に交差反応を起こして、プルキンエ細胞が脱落することによって発病します。2003年に疾患単位として確立し、グルテンフリー食が著効します。

グルテン失調症の小脳症状を発症した年齢は平均値で48歳であり24%に吸収不良を合併しています。ほぼ全例で歩行失調を示し、眼球運動障害や眼振も84%で頻度が高く、末梢神経障害(軸索ニューロパチー)の合併も45%にみられます。頭部MRIでは軽度の小脳萎縮を示すことが多く、抗グリアジン抗体(IgGまたはIgA)陽性であることで診断されます。

自己免疫疾患は抗体が同定されることで、疾患単位として確立して、原因不明の難病ではなく、自己免疫疾患として認知されます。

グルテン失調症は、セリアック病に続いて、メカニズムが解明された2つ目の自己免疫疾患です。これらの自己免疫疾患が意味するところは、同じメカニズムで他の自己免疫疾患が発病していると推測出来ることです。また食事革命と同時期に1800年以降で出現してきた多くの難病も、まだ抗体が同定されていないだけで、同じメカニズムで発症する自己免疫疾患である可能性が極めて高いです。

このメカニズムとは背景にリーキーガットが存在していることです。

リーキーガットとは通常は低分子のタンパク質しか通過させない小腸が、高分子のタンパク質を通過させる病態です。

リーキーガットでは、その人がどれぐらい漏れやすい腸になっているかで、通過してくる物質が変わってきます。これには遺伝的素因、食事、腸内フローラが関与しています。

グルテン失調症では吸収不良は24%と少なく、小腸の問題は軽微であったとしても、グリアジンが通過して来て、グリアジンに対する抗体が出来ます。

リーキーガットで漏れてきたタンパク質に対して抗体が出来て、この抗体が交差反応を起こして自分自身の身体を攻撃することを分子模倣(molecular mimicry)と言います。

リーキーガットの程度や状態によって漏れてくるタンパク質が変わってきて、作られる抗体が変わるために、自己免疫疾患のバリエーションが生まれて来ます。

複数の自己免疫疾患や難病を1人の患者さんが合併する理由は、複数の高分子タンパク質が漏れて来て、それに対する複数の抗体が出来て、これが分子模倣で、複数箇所の自分の身体を攻撃するからです。この場合は、リーキーガットが重度である可能性が高いです。

グルテン以外にリーキーガットの原因となる物質は、腸内フローラのディスバイオーシスによる過剰なLPS(リポ多糖)です。

腸内フローラの主な仕事の1つは、次々に産生されるLPSのダメージを抑えることです。腸内フローラに問題が生じると、身体は産生されるLPSに圧倒されます。

急増する現代病は腸内フローラに関係することがほとんどです。腸内フローラを味方にする食事療法が現代人には重要になってきます。

リポ多糖( lipopolysaccharide, LPS)は、グラム陰性菌細胞壁外膜の構成成分であり、脂質および多糖から構成される物質(糖脂質)です。

LPSは細胞壁から容易には遊離せず、細菌が死滅したときなどに細胞が融解・破壊されることで遊離し、それが動物細胞などに作用することで毒性を発揮します。このような性質から、細菌が外に分泌する毒素(外毒素)ではなく、分泌されない「菌体内に存在する毒素」、すなわち内毒素とも呼ばれます。

LPSは種々の炎症性サイトカインの分泌を促進する作用を持ちます。サイトカインの産生は細菌を除去するための生体防御反応として行われますが、過剰になった場合に毒性が発現します。(サイトカインストーム)