ケトン食と白血球減少

ケトジェニックダイエット(ケトン食)では、白血球減少が見られることが知られています。

まとめ:ケトン食中の白血球減少については、銅欠乏が原因と考えられます。

銅欠乏の原因は、亜鉛や鉄の過剰摂取、高脂肪食による銅の過剰排泄です。

2018年にChinは、ケトジェニックダイエット中の銅欠乏性貧血および好中球減少を認め、銅の補給によってこれらが改善した症例を報告しました。白血球(WBC)数は2830 /μL、好中球減少症は255 / µLの絶対好中球数(ANC)、ヘモグロビン(Hb)が9g/ dL、平均赤血球容積(MCV)が113.4fLの大球性貧血でした。

ケトン食の内容から銅の摂取不足が起こり銅欠乏性貧血および好中球減少を起こしましたが、銅欠乏と好中球減少の関係性は、報告はありますが作用機序は解明されていません。

銅と亜鉛と鉄は小腸で吸収される時に同じメタルトランスポーターを介するために競合しますが、日本人の食事は銅の摂取が多いため、亜鉛が吸収されにくく、結果として銅過剰、亜鉛不足になる方が多いと言われています。

この競合関係から亜鉛は銅の吸収を低下させるため、銅を蓄積するウィルソン病 (先天性代謝障害) の治療に亜鉛が利用されます。まれですが、鉄剤の過剰摂取でも銅欠乏が起こります。

銅は、魚介類、肉類、豆類に多く含まれています。特に多いのはレバー、軟体動物、甲殻類です。いかやたこなどの軟体動物やえびなどの甲殻類の血液では、ヘモグロビンの代わりに銅を含むヘモシアニンというたんぱく質が、酸素を運搬しています。そのため、いかやたこには銅が多く含まれています。

ヒトでも銅は鉄とともに造血機能にも関わっています。

銅は体内での鉄の運搬に関与します。銅が不足すると鉄の運搬が滞ります。その結果、鉄を材料とするヘモグロビンの合成も滞ります。ヘモグロビンは酸素の運搬を担うので、ヘモグロビンの合成が滞って銅欠乏性貧血が起こります。

銅は、成人の生体内に約80mg存在し、その約50%が筋肉や骨、約10%が肝臓中に分布しています。

吸収された銅の約85%が肝臓から胆汁を介して糞便へ、5%以下が腎臓を介して尿中へ排泄されます。

高脂肪食で胆汁酸の排泄が多くなると、銅欠乏を起こす可能性があります。

ケトン食などで極端な食事の偏りのために銅摂取不足によるものや、サプリなどで亜鉛過剰摂取を行った時に銅欠乏が起こってきます。2016年の本岡ら

この場合は、亜鉛と同時に銅を補給する方法の方が良いです。

銅は日常の食生活での欠乏はないとされていますが、長期に経腸栄養での栄養管理がされている患者や、人工栄養の未熟児などでは、摂取量不足による欠乏症がみられることがあります。主な症状は、貧血、骨異常、毛髪異常、白血球減少好中球減少、心血管系や神経系の異常、成長障害などです。また遺伝的な銅代謝異常であるメンケス病では、血液中や、脳や肝臓の銅が減少し、その結果、知能低下、発育遅延、中枢神経障害などの症状が現れます。

2020年にSegalらは、ケトン食を行っている129人の患者の15%が白血球減少症を示したことを示しました。ケトン食療法での白血球減少症の発症は、必ずしも医学的介入を必要としないと考察しています。

2019年にSchreckらは、てんかんの治療のためにケトン食療法を行った52人が、有意に白血球減少および好中球減少を示したことを報告しました。