高齢者の骨折と栄養

まとめ:①骨は軟骨(タンパク質)が加骨されて作られます。動物性タンパク質の摂取がまず大切です。②精製糖質(ご飯、パン、麵、お菓子、ジュース)の摂りすぎで、骨が糖化して骨折しやすくなりますので、注意してください。③カルシウムを乳製品で摂取すると、同時に摂取する大量のリンのために酸性脱灰が起こり、逆説的に骨折しやすくなります。原則的に乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ)を摂らないようにします。④食品添加物に多く含まれるリンを避けるために、加工食品(ハム、ベーコン、練り物、プロセスチーズ、インスタント麺、缶詰、ファストフードなど)の摂取を控えます。⑤現代食では、カルシウムとリンが過剰、マグネシウム不足となりますので、マグネシウムの補給が必要です。⑥1日800IU 以上のビタミンDの摂取が有効です。⑦緑の野菜に含まれるビタミンKも重要です。⑧ほとんどの骨折は転倒が原因です。運動を継続して、筋力とバランス力を保つことも大切です。

動物由来の食事性タンパク質の摂取は、閉経後の女性の股関節骨折の発生率の低下と関連していることが報告されています。(1999年、Mungerら

最新のメタアナライシスでも、タンパク質摂取量が多いと股関節骨折が大幅に減少することが総括されています。

2型糖尿病肥満高血圧は骨折のリスク要因であることが知られています。

精製糖質(ご飯、パン、麵、お菓子、ジュース)の摂りすぎで骨が糖化して骨折しやすくなります。(2015年、Poundarickら

骨粗鬆症治療薬のビスフォスフォネート薬剤は、および閉経後の女性の骨にAGEsを蓄積させますので、注意が必要です。

成人女性による牛乳またはサプリなどによるカルシウムの摂取が、股関節または前腕の骨折に対する保護効果がないことが総括されています。(2011年、Feskanichら

最新の総論でも、ミルクの消費量と骨折との関係が指摘されています。(2020年、Willetら

なお、この関係は統計学的に有意ではないとされています。ミルクの摂取量の多い国ほど骨折が多い理由としては、ビタミンDや緯度が高い地域などの交絡因子が関係してると考察されています。結論としては、高齢者の牛乳の大量摂取は、骨折の保護効果を持たないとしています。

アメリカにおけるリンおよび無機リン添加物(ハム、ベーコン、練り物、プロセスチーズ、インスタント麺、缶詰、ファストフードなどの加工食品に添加されています)の平均摂取量は、推奨される食事摂取基準をはるかに上回っており、リンの過剰摂取が骨折のリスクを上げることが懸念されています。(2017年、Vorlandら

リンを大量に含むソフトドリンクの摂取が骨折のリスクと相関することが報告されています。(2020年、Chenら

血清リンは、BMD(骨密度)およびリン酸塩摂取量とは無関係に骨折リスクと正の相関があり、血清リン酸塩が1 mg / dL増加するごとに、骨折のリスクが47%増加したことから、正常範囲内でさえ増加した血清リンレベルが正常集団の骨の健康に有害である可能性が指摘されています。(2017年、Obandoら)

ビタミンKは、ほうれん草、カリフラワー、キャベツなどの緑の葉野菜、MKnはバター、牛レバー、凝乳チーズ、卵黄、納豆などに含まれています。(2003年、Boothら

ビタミンKは、通常は腸内細菌によって作られるので、健常者では不足することはありません。

ビタミンKが骨折に対して保護的に働くことが総括されています。(2017年、Fusaroら

高齢者の骨折に対するビタミンD単独の保護効果は、一致した結論に達していません。(2010年、Annweiler)

2007年のメタアナライシスでは、50歳以上の骨粗鬆症性骨折に対して、カルシウムとビタミンDのそれぞれ単独の補給では有効性はなく、両方の補給が有効であり、カルシウムは1200mg、ビタミンDは800IU以上を推奨量としています。

大腿骨頸部と股関節全置換術では、マグネシウム摂取量とBMD(骨密度)の間にわずかに有意な正の相関がありました。腰椎のマグネシウム摂取量とBMDの間に有意な相関関係は観察されませんでした。(2015年、Farsinejad-Marjら

マグネシウム摂取量の低下は、股関節と全身のBMD(骨密度)の低下と関連しています。推奨栄養所要量よりわずかに多いマグネシウム消費量は、より多くの身体活動と転倒に関連している可能性のある下腕と手首の骨折の増加に関連しています。(2014年、Orchardら