加齢性難聴

まとめ:加齢性難聴は高齢者の一般的な老化現象のひとつです。メカニズムとしては、老化に伴う酸化的な蝸牛細胞の損傷が考えられており、抗酸化サプリによって予防出来る可能性があります。

抗酸化物質が豊富な食事による保護効果は証明されていません。

必須ビタミンやミネラルの不足と難聴の関連が指摘されています。

加齢に伴う難聴(加齢性難聴、老人性難聴)は、哺乳類の老化の普遍的な特徴であり 、高齢者集団で最も一般的な感覚障害です。

70歳以上の人々の約半数以上がコミュニケーションに影響を及ぼす難聴があり(2008年、Agrawaiら)、加齢に伴って有病率が加速度的に増加することが知られています。(2011年、Linら

加齢に伴って抗酸化力が、急激に低下することと関連しています。

メタアナリシスでは、加齢性難聴と認知症(2015年、Taljaadら)、うつ病や社会的孤独(2015年、Dawesら)が関連することが指摘されています。

加齢性難聴の要因となるリスクファクターとしては、高いBMI(2008年、Fransenら)、低いBMI(2015年、Leeら)、喫煙(2014年、Dawesら)、糖尿病(2013年、Horikawaら)、動脈硬化(2008年、Nomiyaら)、遺伝(2001年、Christensenら)、黒人では少ないなどの人種(2011年、Linら)、騒音(2007年、Daniel)が指摘されています。

適度なアルコールは保護効果があり、過剰なアルコールはリスク要因であると報告されています。(2014年のDawesら、2015年のLeeら

蝸牛細胞に対する累積酸化ストレスがミトコンドリアDNAの変異からミトコンドリアの機能障害を起こすこと、アテローム性動脈硬化症による蝸牛血液供給低下による比較的低酸素状態によって、蝸牛細胞の細胞死によって難聴が発生するモデルが提唱されています。(2013年のYamasobaら2017年のTavanaiら2010年のSomeyaら

動物実験では、加齢性難聴を防ぐ抗酸化物質としてα-リポ酸、ビタミンC、ビタミンE、Nアセチル-L-カルニチン、ベータ-カロテン、カルノシン、補酵素Q 10、クルクミン、d-アルファ-トコフェロール、没食子酸エピガロカテキン、没食子酸、ルテイン、リコピン、 C57BL / 6JマウスのAHLに対するメラトニン、N-アセチル-L-システイン(NAC)、プロアントシアニジン、ケルセチン、レスベラトロール、およびタンニン酸などが報告されていますが結論は出ていません。(2010年のSomeyaら2017年のTavanaiら2019年のFujimotoら

最新の総論では、NAC、α-リポ酸、アミホスチン、エブセレン、コエンザイムQ10などが、臨床研究で難聴に対する保護効果が総括されています。(2020年、Pakら

人間を対象とした研究で、抗酸化ビタミン(毎日のβ-カロテンとビタミンCおよびE)とマグネシウムの摂取が、難聴のリスクを下げることが報告されています。(2014年、Choiら

抗酸化物質が豊富な食事による保護効果は証明されていません。

フラボノイドは抗炎症特性を持つ血管作用性の植物化学物質です。フラボノイドと10年間の摂取量と加齢性難聴の発生率との間に有意でない関連が観察されたことから、フラボノイドが加齢性難聴に対して保護効果を持たないことを報告しました。(2020年、Gopinathら

動物実験で、抗酸化物質が豊富な食事が難聴の進行を遅らせることが出来ないことが報告されています。(2012年、Shaら

食事による抗酸化物質の摂取は、加齢性難聴の発生率ではなく、有病率と関連していることが報告されています。(2011年、Gopinathら

必須ビタミンやミネラルの不足と難聴の関連が指摘されています。

栄養素と難聴の関係について、ビタミンA、葉酸、ヨウ素が難聴の進行を遅らせる(2018年、Pugaら)、ビタミンA、B、C、D、E、亜鉛、マグネシウム、セレン、鉄、ヨウ素の欠乏が難聴のリスクを上げること(2019年、Jungら)が報告されています。

聴覚に対するIPS細胞を用いた再生医療の研究もされていますが、未だに道のりは遠いです。(2014年、増田

カロリー制限による長寿効果が話題を呼んでいますが、加齢性難聴に対するカロリー制限の予防効果は、報告者間で一貫していません(2010年、Someyaら