男性型脱毛(AGA)、PCOSに対する薬物療法

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:polycystic ovarian syndrome)とは、若い女性の排卵障害では多くみられる疾患で、卵胞が発育するのに時間がかかってなかなか排卵しない疾患です。月経周期が長い、不妊、にきび、男性型脱毛、男性型多毛、髭、低音声などの男性化症状が出現します。

男性型脱毛(AGA)とPCOSの発症メカニズムは同じアンドロゲン作用なので、薬物療法も同様に考えることが出来ます。

■抗アンドロゲン治療

1.デュタステリド(Dutasteride)

世界100か国以上で前立腺肥大の改善作用を承認されており、日本でも前立腺肥大にのみ保険適応されています。

世界中で日本と韓国の2カ国だけがで、デュタステリドが男性における男性型脱毛症の治療薬として承認されています。日本では男性型脱毛症に対しては、保険収載はされていません。女性には承認されていない。

デュタステリドは5α-還元酵素の3つのアイソザイムのSRD5A1、SRD5A2、SRD5A3を阻害します、一方のフィナステリドはSRD5A2とSRD5A3を阻害します。5AR の 3 つのアイソフォームのうち、デュタステリドは I 型と II 型の両方を阻害しますが、フィナステリドは II 型のみを阻害します。さらに、デュタステリドはフィナステリドよりもII型を3倍抑制し、I型を100倍抑制します。(2004, Clark)

半減期はデュタステリドの方が長く、3.4±1.2週間に対して、フィナステリドは4時間と短いです。

抜け毛の防止効果はフィナステリドを上回ることが確認されており、フィナステリドでは不十分だった増毛効果も報告されています。(2019, Zhou)

どちらの薬剤も、副作用(性欲減退、勃起不全、射精障害)が報告されていますが有意差はありません。

頻度は不明ですが両剤ともうつ病のリスクが懸念されています。(2016, Hishburg)

デュタステリドは、1%以上5%未満に性欲減退の副作用が発現するほか、1%未満に勃起機能不全、射精障害、精液量減少が発現します。

効果も半減期も長いデュタステリドは、女性が男児を妊娠した場合に性器の発育不全(男性性器の女性化)が起こることから、妊娠可能女性が薬剤の取り扱いをしないように注意喚起されています。皮膚吸収の可能性も指摘されています。(2017, Teichert)(DONOVAN HAIR CLINIC)

2.フィナステリド(finasteride)

男性における男性型脱毛症のみの適応で、保険収載はされていません。女性には承認されていません。

高用量(5mg/day)で前立腺肥大症・前立腺癌に対して抑制的に作用します。Proscar等の商品名で海外で販売されていますが、日本では前立腺の治療薬としては未承認です。低用量(0.2mgまたは1mg/day)で、男性型脱毛症(AGA)に対して脱毛抑制効果を認め、プロペシア(Propecia)の商品名で多くの国で発売されています。

主な副作用は勃起不全(4.3%)、リビドー減退(3.9%)、精液量減少(1.3%)が指摘されています。

3.スピノラクトン(spironolactone)

スピロラクトンは、腎臓のミネラルコルチコイド受容体へ結合してアルドステロンの結合を阻害するアルドステロンアンタゴニストであり(1975, Corvor)、それ以外にもアンドロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エストロゲン受容体にも結合して阻害します。(2017, Carone)

スピロラクトンは、ステロイドホルモン受容体に幅広く結合して阻害する拮抗薬で、5αレダクターゼ阻害薬ではありません。

スピロノラクトン (spironolactone) はカリウム保持性利尿薬(抗アルドステロン薬)で降圧剤として一般的には使われています。

抗男性ホルモン作用を併せ持つため、これを応用して男性型の脱毛症(2021, Abdel‐Raouf)、PCOS(2014, Mazza)への有効性が報告されています。

副作用として高K+性アシドーシス、女性化乳房、皮膚発疹などが報告されています。

半減期は、13.8~16.5時間です。

スピノラクトン投与群では、重度の心不全患者の罹患率と死亡率の両方のリスクが30%低下することが指摘されており(1999, Pitt)、長寿効果(2021, Xu)なども期待されています。

5αリダクターゼ阻害剤では副作用としてうつ病がありましたが、スピノラクトンはうつ病に対しては保護的に働きます。(2013, wu)

110名の女性のニキビに対するスピノラクトンの有効性が報告されています。(2017, Chamy)

■インスリン抵抗性に対する治療

メトフォルミン(metformin)

インスリン抵抗性を改善する目的で古くから主に2型糖尿病に使われています。減量効果や長寿効果からも注目されています。

11の論文のメタ解析で、早期流産と早産の割合は、メトホルミン治療を受けたPCOS女性で有意に減少することが総括されています。(2016, Tan)

メトホルミンは、インスリンの伝達系のAMPKを活性化させて、グルコースの取り込み↑、糖新生↓、タンパク合成↓、脂肪酸合成↓します。

インスリンの効き目を良くして、インスリン抵抗性を改善してPCOSを間接的に治療します。

AMPKの活性化は、運動でも同じ効果があることから、メトフォルミンの疑似運動効果と呼ばれます。

メトホルミンとスピノラクトンの併用療法のPCOSに対する有効性が報告されています。(2014, Mazza)

■ミノキシジル

ミノキシジル(Minoxidil)とは降圧剤の血管拡張薬として開発された薬剤で、後に発毛効果があるとされ発毛剤に転用されています。

毛成長のメカニズムについては、毛乳頭細胞や毛母細胞の活性化と説明されていますが詳細は未だわかっていません。

市販薬、医薬品、飲み薬、塗り薬があり、女性も使用可能です。

抗アンドロゲン作用を持たないことから、他の脱毛治療薬と併用すると相乗効果が期待できるとされています。

脱毛に対抗する薬なので、最も一般的な副作用は頭皮の痒みです。

■甘草、グリチルリチン

生薬の甘草に含まれるグリチルリチンは、5αレダクターゼを阻害する作用を持ちAGAに有効であることが知られています。(2019, Dhariwala)