新型コロナ後遺症の病態生理の理解
エール大学の岩崎明子教授が、Long covidやPASC(post-acute sequelae SARS-CoV-2 infection)と呼ばれる新型コロナ後遺症の解説(2023, Iwasaki)をされています。ワクチン後遺症の病態生理の理解にもほぼそのまま応用できますが、自己免疫疾患への言及が不十分であると思います。
新型コロナ後遺症は世界中で6500万人いると言われており、すべての臓器に関する200以上の症状が報告されています。
根本原因としては、A.ウイルスの持続感染、B.自己免疫、C.潜在ウイルスの再活性化、D.組織の損傷と機能不全の組み合わせが考えられます。
根本原因に続く二次的な病態として、①マイクロクロット(微小血栓)の形成や血小板の活性化、②ミトコンドリアの機能不全、③コルチゾールの減少があります。
①マイクロクロットと血小板の活性化
南アフリカの新型コロナ後遺症患者80人からの血液サンプルの蛍光顕微鏡の検査で、マイクロクロット(微小血栓)と血小板の活性化(2020, Venter)が患者全員に認められました。(2022, Pretorius)
蛍光顕微鏡によって撮影された様々な段階のマイクロクロット形成の代表的な例。ステージ 1 は、健康/コントロールにおける最小限のマイクロクロット形成を示し、重度のマイクロクロット ステージ 4 の存在に進行します。
軽度のステージ 1 では、血小板の活性化が最小限であり、仮足がいくつかあり、健康であると見なされます。卵形の血小板を伴う重度のステージ 4 は、血小板の巨大化と凝集の始まりを示しています。
②代謝障害の問題、ミトコンドリアにおける基質利用の機能不全、脂肪酸β酸化能力の障害
新型コロナ後遺症患者(新型コロナ感染の陽性後、28日以上経過して疲労感などの症状あり)の血液のメタボローム解析において、ミトコンドリア機能障害による脂肪酸β酸化能力の障害があることから、ミトコンドリアにおける基質利用の機能不全がPASCの代謝症状の根底にあるという仮説を支持しています。(2022, Gunter)
COVID-19急性期後症候群患者(PASC)が、段階的な運動中にミトコンドリア機能を損なうかどうかを調査するため、運動中の血液のメタボローム解析において、脂肪酸酸化の減少と乳酸産生の変化、PASC患者は運動中の脂肪のβ酸化と血中乳酸蓄積の増加に重大な障害がありました。(2022, de Boer)
ME/CFSでも同じ問題が指摘されています。
ME/CFSのメタボローム解析でも、TCA回路の多くの中間代謝物が低値になっており、TCA回路も低代謝になっています。(2016, Yamano)(2016, McGregor)(2016, Nauviaux)
ME/CFSのメタボローム解析でサクシニルカルニチンの低下、遊離脂肪酸のひとつであるパルミチン酸の増加が指摘されています。(2017, Germain)
③代謝障害の問題、全般的なアミノ酸の枯渇
健常者、新型コロナ感染後に後遺症(PASC)あり(新型コロナ感染の陽性後、28日以上経過して疲労感などの症状あり)、新型コロナ感染後に後遺症(PASC)なしの3群で血液のメタボローム解析が行われました。アミノ酸 (アラニン、アスパラギン酸、アスパラギン、ロイシン/イソロイシン、メチオニン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン)および、タウリンの枯渇が報告されています。(2022, Gunter)
タウリンの循環レベルが、COVID後の患者では健康なコントロールレベルに回復するが、PASCでは回復していません。(2022, Gunter)
トリプトファンとタウリンの枯渇は、急性COVID-19 疾患のメタボローム解析でも報告されており注意する価値があります。(2020, Thomas)
タウリンの補給が COVID-19 の治療におけるアジュバントとして提案されています。(2022, van Eijk)
ME/CFS患者のメタボローム解析でも、タウリンの低下(2017, Germain)、必須アミノ酸の低下が報告されています。(2016, McGregor)(2016, Nauviaux)