ワクチン後遺症と遊離脂肪酸

当院のワクチン後遺症患者の遊離脂肪酸を測定して、対照群および2型糖尿病の方と比較しました。

ワクチン後遺症群の平均値は対照群と比べて高いですが、有意差はありません。検査会社の基準値は、0.10〜0.81mEq/Lです。

分布を箱ひげ図で見てみたものが下図です。

血液中の遊離脂肪酸の代謝をまとめました。

遊離脂肪酸はインスリン抵抗性との関係が報告されていますが(2011, Boden)、血中動態はインスリンと相反する動きになります。

グルコース↑ → インスリン↑ → 遊離脂肪酸↓ と連動します。

34 人の耐糖能被験者 (●)、7 人の肥満対照被験者 (○)、および 8 人のやせた被験者コントロール対象 (◆)における 8 時間の代謝プロファイル中の平均 (± SEM) 血漿グルコース、インスリン、遊離脂肪酸 (FFA)、およびトリアシルグリセロール (TG) 濃度について、朝食は 0 時に、昼食は 5 時に摂取した報告があります。(2003, Wolever)

炎症病態ではリパーゼの活性化(2015, Peng)(2020, McNabb-Baltar)によって、中性脂肪が分解されて遊離脂肪酸が産生され、それが脂肪酸毒素となってミトコンドリアの障害を起こします。

一方で、新型コロナ後遺症およびME/CFSでは、ミトコンドリアの基質利用の機能不全、脂肪酸β酸化能力の障害が存在することから、上流からなだれ込み、下流は停滞するため、中間代謝物の遊離脂肪酸が増えて、脂肪酸毒素として働き悪循環となります。

COVID-19急性期後症候群患者(PASC)が、段階的な運動中にミトコンドリア機能を損なうかどうかを調査するため、運動中の血液のメタボローム解析において、脂肪酸酸化の減少と乳酸産生の変化、PASC患者は運動中の脂肪のβ酸化と血中乳酸蓄積の増加に重大な障害がありました。(2022, de Boer)

新型コロナ後遺症患者(新型コロナ感染の陽性後、28日以上経過して疲労感などの症状あり)の血液のメタボローム解析において、ミトコンドリア機能障害による脂肪酸β酸化能力の障害があることから、ミトコンドリアにおける基質利用の機能不全がPASCの代謝症状の根底にあるという仮説を支持しています。(2022, Gunter)

ME/CFSのメタボローム解析でも、TCA回路の多くの中間代謝物が低値になっており、TCA回路も低代謝になっています。(2016, Yamano)(2016, McGregor)(2016, Nauviaux)

ME/CFSのメタボローム解析でサクシニルカルニチンの低下、遊離脂肪酸のひとつであるパルミチン酸の増加が指摘されています。(2017, Germain)

一方で、インスリン抵抗性のある2型糖尿病の方は、中性脂肪への合成経路が阻害されるため 、当院の結果でも遊離脂肪酸が極端に高い値になっています。

遊離脂肪酸は、インスリン抵抗性と関係しており、肥満の人で上昇することが知られています。(1969,  Björntorp)(2011, Borden)

ロングコビット(long covid)と呼ばれる新型コロナ後遺症で現れる症状についての総論が出ており、21%で体重減少が見られることが報告されています。(2021, Michelen)

ワクチン後遺症を対象とした論文は少ないですが、当院のケースではワクチン後遺症の方は全例が体重減少または現状維持であり、インスリン抵抗性にはほぼ問題がないため、グルコース摂取に反応して、遊離脂肪酸が中性脂肪に回収されたため、遊離脂肪酸が有意に高くならなかったと考えます。

ワクチン後遺症の治療に半日断食が推奨されていますが、断糖すると遊離脂肪酸が蓄積するリスクがあります。