チック症に対する習慣逆転法

チック障害(チック症)とは、本人の意思とは関係なく(不随意)・急に(突発的に)運動や発声が反復して起こる病態で、それぞれ運動性チック、音声チックと呼ばれます。複数のタイプの症状が長期間続く場合は、トゥレット症候群と呼び区別します。

習慣逆転法(habit reversal)が、チック症の認知行動療法の中で最も有効性が高いと言われています。

1973年にAzrinらが、習慣逆転法を初めて提唱しました。

2007年にLombrosoは、習慣逆転法を以下のように説明しました。

慢性のチック障害のある人は、チックの前に前兆の感覚がすることがよくあります。前兆としては特定の筋肉群のかゆみや感覚や何らかの衝動を感じるかもしれません。

これらの感覚は、その人がチックを抑制しようとすると、さらに強くなる場合もあります。

チックのパフォーマンスは、その前兆の感覚からの瞬間的な解放に関連しています。

習慣逆転法は、患者が前兆を感じたときに、チックを競合する反応(より快適または許容できる動きまたは音)に置き換える方法です。

具体的な治療ステップは以下の4段階で行います。(2017年、野中ら

1-気づきのトレーニング

ステップ1: まず最初は、どのようなチックが出現しているのか、第三者または鏡を見て問題のある行動(チック、髪を抜く、音声チックなど)を観察して、その瞬間を詳細に説明出来るようにします。

ステップ2:チックの前に生じる前兆を探ります。それは身体感覚であり、「ムズムズする」、「重く感じる」、「もやもやする」など様々です。これらの前兆をサインとして共有します。

2-逆転させる反応(拮抗反応)の作成

チックまたは衝動的な行動とその前兆のサインの認識出来たら、次のステップは、そのチックまたは衝動的な行動を置き換えるために反対の拮抗反応(Competing Response)を作成します。

これは「チックをしないで済むような行動や姿勢や発声」です。

この拮抗反応は、①身体的にチックと同時には出来ないけれど、より自然でリラックスした動きであること、②1分以上、前兆がなくなるまで維持することが出来ること、③チックよりも社会的に目立たない、注意を引かないこと、④患者にとってしっくりくることの4つが大事と言われています。

例えば、首を振るチックの場合は、「首の後にそっと力を入れる」、「遠くの一点を見つめながら、深呼吸する」という拮抗反応が選ばれます。「遠くの一点を見つめる」ことに集中すると、首を振ることは出来なくなります。音声チックの場合は、「深呼吸する」や「特定の発語を故意にする」という拮抗反応が有効です。

様々なチックに対する拮抗反応は上図を参照してください。まばたきのチックでは「ゆっくりまばたきする」、肩のチックでは「両腕を脇に添えて腕を伸ばす」、足を動かすチックでは「両足を地面につけて意識を向ける」、顎のチックでは「口を閉じて顎に少し力を入れる」、音声チックでは「深呼吸する」などです。

概ね拮抗反応中はチックをしたいという衝動は治まっていくと言われています。前兆(チックをしたいという衝動)は、実際にはチック症状が出ても、出なくても時間の経過とともに治まっていくことを認識していることも大事です。

長時間その拮抗反応の練習をしてもチックをしたいという前駆衝動が治まらない場合は、拮抗反応を見直す必要があるかもしれません。

3-動機の維持

拮抗反応が効果的であったとしても、前兆を四六時中意識することは簡単なことではありませんし、実際に拮抗反応でチックを防げることもあれば、防げないこともあります。

こうした理由で、習慣逆転法を継続して行うことは簡単なことではありませんので、モチベーションを維持をすることが大変です。

周囲が、大変な課題に取り組む患者さんを支えるという視点を忘れてはいけません。

以上が、チック症状を認知して、拮抗反応という行動で軽減させて行く習慣逆転法という認知行動療法です。