癌の栄養療法(東口高志先生)
病院勤務されている先生が、ここまで取り組まれているのは本当にすごいことです。
三大栄養素の中でも重要なのがタンパク質です。タンパク質は骨格筋や心筋をはじめ、人体の有機化合物の50%以上を構成する材料であり、細胞の働きにも重要な役目を果たしています。そのためタンパク質が不足すると、まず骨格筋や心筋などの筋肉量が減少します。新たな筋肉を作れないうえに、足りない栄養を補うために筋肉自体を消費してしまうのです。筋肉量が減ると当然、歩けない、立てない、座れないといったことが起こり、やがて寝たきりになってしまいます。
さらに、血液の中にあるタンパク質も減少します。すると免疫細胞などが作れなくなって、免疫機能が落ち、傷の治りが遅くなり、臓器に障害が起こります。そして最終的には、身体全体のタンパク質の25~30%が失われると、人は死に至ります。つまり、栄養障害によって、人は死ぬことがあるのです。
最初に出てくるのはタンパク質です。
タンパク質不足による死を、窒素死(Nitrogen Death)と言うそうです。
8割の癌患者は、癌で亡くなるのではなく、タンパク質不足で死に至るということが、この本の主旨です。
その他に上げられている栄養素は以下です。
BCAA(分枝鎖アミノ酸):足りない糖質を補うために筋肉崩壊が起こってくる。これを防ぐ作用が強い。
コエンザイムQ10:低酸素状態でも呼吸筋などの筋力を高めたり、筋肉の疲労を抑制する、ATP産生において電子伝達系で補酵素として働く。
ω(オメガ)3系脂肪酸:抗炎症作用や抗動脈硬化・抗血栓作用がある。
ビタミンB1:身体を弱らせないための栄養素では、正常細胞が好気性解糖を効率よく行うには、ビタミンB1が欠かせません。
L‐カルニチンとコエンザイムQ10:がん細胞から放出されたサイトカインなどのせいで、脂肪酸が血中に溶け出しているにもかかわらず、それを利用できないため高脂血症になってしまいます。しかし、L‐カルニチンとコエンザイムQ10を同時に投与すると、脂肪酸がミトコンドリアに入りやすくなり、血中脂質を利用できるようになります。
BCAAやクエン酸:がん細胞では、嫌気性解糖で乳酸が沢山作られます。乳酸をブドウ糖にするのではなく、ピルビン酸に戻すことができれば、余計なエネルギーを消費せずに済み、だるさも解消されます。それにはBCAAやクエン酸が有効で、これらの栄養素は乳酸からピルビン酸への代謝を促進するとともに、乳酸を出来にくくもしてくれます。
ビタミンA、C、Eや亜鉛:全脳照射を受けると脳が炎症を起こしますが、これを抑えるために有効です。
ミネラル:味覚障害がありますから、亜鉛や鉄をはじめとするミネラル、ビタミンもきちんと投与して、食欲がわくようにもします。
亜鉛:インスリンの生成に欠かせない物質で、亜鉛が欠乏するとインスリンがきちんと分泌されなくなってしまいます。
BCAAと呼ばれる3種の分枝鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)はヒトでは必須アミノ酸であり、筋タンパク質中の必須アミノ酸の35%を占め、哺乳類にとって必要とされるアミノ酸の40%を占めています。
自宅で療養される場合は、BCAAだけでは足りません。効率よく身になる必須アミノ酸をすべて摂取する必要があります。それは、卵やホエイプロテインです。
ビタミンB1だけでなく、ビタミンB群で摂り、他のビタミン、ミネラルの摂取も必要です。