腸内フローラの多様性

まとめ:腸内フローラの多様性を改善するためには、複合炭水化物(野菜、果物、海藻)の形で、1日50g以上の食物繊維を摂取することがポイントです。

(50gの食物繊維とは、重さが約700g、または大皿2枚分、または200ccのカップで6カップ分の野菜、果物、海藻になります)

■腸内フローラの多様性はますます低下しています

2014年にSonnenburgらは、(A)農耕社会が始まって、工業化食品、加工食品、洗浄された食品が食べられるようになり、(B)衛生環境が改善して、抗生物質が使われ、帝王切開が広まることで、腸内フローラの多様性の低下が進行していることを警告しています。

食の西洋化によって、食事中の食物繊維が減って、脂質と精製糖質が増えたことにより多様性が低下したことを指摘しています。

2015年にMartínezらは、食物繊維の摂取量の多いパプアニューギニア人は、腸内フローラの多様性がアメリカ人よりも高いことを報告しました。

同様の調査結果は、アフリカ(2010年にDe Filippoら2014年にSchnorrら)と南アメリカ(2012年にYatsunenkoら)などの発展途上国で示されています。

2012年にMartínezらは、標準的な米国の食事に全粒穀物を追加すると、腸内フローラの多様性が高まり、その結果として免疫力が改善されることが報告されています。

食物繊維の主要な微生物代謝物のひとつの短鎖脂肪酸が、肝臓や大腸のエネルギー源になるだけでなく、腸の粘膜免疫を改善することができます。

2017年にMenniらは、食物繊維の摂取量と腸内フローラの多様性が正の相関があり、それらは体重減少と相関することを報告しています。

2017年にChengらは、マウスの実験で単一の食物繊維サプリメントが多様性を低下させて、複数の食物繊維サプリメントが多様性を増加させることを報告しています。

2018年にSoらは、食物繊維のサプリメントおよび食物繊維の豊富な食物(全粒小麦など)による介入研究の総論(2099人を対象とした64の研究)で、これらは多様性を改善しないことを報告しています。

2019年にJeffersonらは、小麦系の食物繊維(全粒小麦シリアルなど)の42の介入研究の総論で、多様性の向上を報告しています。

(食物繊維のサプリメントの効果は、一致した結論に至っていない)

抗生物質の使用が腸内フローラの多様性の低下に関係することはよく知られています。

タンパク質摂取量運動が、腸内フローラの多様性と正の相関があることが報告されています。

高脂肪食であるケトン食療法では、腸内フローラの多様性が減ることが報告されています。

マウスの実験で、高脂肪食は腸内フローラバランスを変化させることが報告されています。

(高タンパク食で多様性↑、高脂肪食で多様性↓)

■多様性の低下と疾患

食物繊維の少ない食事に起因する腸内細菌叢の変化によって、短鎖脂肪酸の産生が減り、粘液層の深刻な悪化につながります。

このことは粘膜免疫を弱体化して、感染症への感受性と慢性炎症性疾患の発症を高めることが知られています。

2016年にDesaiら2008年にSchroederら

炎症性腸疾患過敏性腸症候群、結腸直腸癌、喘息、肥満、糖尿病、慢性肝疾患自己免疫疾患自閉症てんかんなどと腸内フローラの多様性の低下の関係が報告されています。

一方で、うつ病の多様性の低下については一致した結果が得られていない。

不安障害の多様性についても一致した結論が得られていません。

妊娠マウスに抗生物質を投与して腸内フローラを減らすと、生まれたマウスに行動発達の問題が生じることが報告されています。

2016年にMoscaらは、西洋のライフスタイルが腸内フローラの多様性の低下を招き、そのことが様々な疾患に繋がっていることを報告しています。

さらに、多様性の回復は単一のプロバイオティクスでは不可能であるが、糞便移植であれば可能であることを指摘しています。

■食物繊維の適正摂取量

農耕時代が始まる前の原始時代は、1日100g程度の食物繊維を摂取していました。

現代人の食物繊維の摂取量は1日15g程度で、国の推奨量は約25gとなっています。

自己免疫疾患のための食事療法であるWahlsプロトコールでは、1日80gを推奨しています。

アフリカなどの発展途上国では、現在も1日50g以上の食物繊維が食べられていますが、慢性炎症疾患が非常に少ないことが知られています。

毎日の野菜・果物ジュースが腸内フローラの多様性を改善するという報告があります。ただし、これは市販の野菜ジュースなどではなく、家庭でジューサーなどを使って作った生ジュースです。(2018年、Choiら)

高容量のの食物繊維の摂取で、大腸癌のリスクが低減すること2型糖尿病が改善すること肥満解消のための食欲の抑制効果心血管疾患のリスク低下などが報告されています。

宿主免疫と腸内フローラの多様性の関係も指摘されています。