トラウマによる解離からの回復〜ジェニーナ・フィッシャー

トラウマによる解離からの回復を読みました。内容の一部のまとめと考察をします。

まとめ:解離症状や精神症状をヒステリーなどとネガティブな心理学的な視点で捉えるのではなく、神経生理学的な視点から興味・好奇心というポジティブな視点で見てみる。その後可能であれば、興味・好奇心→理解→受容→信頼→愛着と段階的に捉えることが出来れば、ブレンド解除の方向へ進みます。

ブレンド解除とは、圧倒するパーツが存在せず、パーツ同士がアクセス可能であり、お互いが支配しようと争っていない状態である。(内的家族システム療法

人の心は、複数の部分から成り立っており、このひとつひとつをパーツと呼びます。健常者では、このパーツはある程度は全体としてまとまっており、ひとりのまとまった人格として行動できます。

解離性障害では、トラウマに関係するパーツが全人格を圧倒してしまって、フラッシュバックや人格交代が起こります。別の言い方をすれば、パーツと主人格が同一化してしまって、感情や行動の制御が出来なくなります(=ブレンド化)。

第1章では、解離を生物としての適応戦略として理解していきます。心理学的な理解ではなく、神経生物学的な理解として解離を捉えます。

解離は、圧倒されるトラウマ記憶から遠ざかることで「よい自分」を保ち、強い感情(恥、恐怖、怒りなど)やトラウマ記憶を「自分ではない」と切り離すことで、生き延びていく、生物としての生存戦略です。

動物が危機に瀕した時には、戦う(闘争)反応、逃げる(逃走)反応を経て、最後は固まる反応(凍りつき反応)に至ります。この最後の固まる反応が解離で、人間の複雑な解離現象も同じです。

第2章では、トラウマ記憶から潜在記憶へ焦点を移していきます。派手なトラウマ記憶ではなくて、トラウマの引き金となる潜在記憶の感情、信念、防衛反応を特定していきます。この潜在記憶を治療ターゲットとして扱って行くことがポイントです。

この潜在記憶は、書き換えて変更することが可能です。潜在記憶の書き換えによって、トラウマ記憶を再構築して、トラウマ関連の症状を変容させることが出来ます。

第3章では、クライエントの治療者としての役割を説明していきます。

マインドフルネスはパーツを俯瞰する際に必要となる技術です。パーツに圧倒されて同一化(ブレンド化)せずに、ただ眺めると言うことです。

マインドフルネスによって活性化する前頭前皮質は、扁桃体(緊急ストレス反応をする部位)を沈静化させます。

パーツに対して「嫌悪や敵視」(感情と同一化して戦ったり、批判したりすること)ではなく、フラットに眺めることが大事です。パーツの持つ感情、思考、反応に嫌悪や敵視でなく、興味を持つことが大事です。

第4章は、構造的解離モデルについて説明していきます。

症状や役割によってパーツを認識して、パーツ間の葛藤や闘争を理解します。

この過程で、パーツへの興味や好奇心を育み、自分の内側の景観を俯瞰して理解し、最終的にはパーツの集合体である私達への受容を促します。

興味・好奇心→理解→受容

構造的解離モデルを使って、複雑な解離症状を、心理学的物語としてではなく神経生物学的に理解します。

第7章では、「自殺願望、自己破壊、摂食障害、嗜癖のパーツに働きかける」ための方法を提示します。

これらの高リスク行動は、パーツたちが危機に瀕した時の防衛反応で、生き残るための苦肉の策です。根底にあるのは、恥、怒り、恐怖に耐えるための方法であるか、フラッシュバックや悪夢に耐えるために神経系を調節するための神経生物学的な防衛反応です。

このような問題行動は、演技的なもの、回避的なもの、注目を集めるためのものと言われてきましたが、神経生物学的な防衛反応と理解することが大事です。

パーツたちを非ブレンド化(感情や衝動を自分である、ではなくて自分の一部として俯瞰できる)する能力が上がってくると、前頭前皮質が働いて、危険行為への衝動を抑えられるようになります。

第10章では、ひとつひとつのパーツと信頼関係を回復して、愛着関係を構築していくことが書かれています。

第11章では、パーツ達と最終的には愛着関係を修復することの意義が強調されています。

興味・好奇心→理解→受容→信頼→愛着