ナルコレプシーと新型コロナワクチン

まとめ:新型コロナワクチン接種後に日中の強い眠気やナルコレプシーを発症することがあります。オレキシン神経の自己免疫機序による障害が考えられます。自己免疫疾患発症の3条件である、ワクチン接種によるバリアの障害、遺伝的素因、分子模倣を満たした場合に発症します。

■ナルコレプシー

ナルコレプシーの主症状は、過度の日中の眠気です。また、強い感情によって引き起こされる覚醒中の不随意の筋緊張喪失であるカタプレキシー(脱力発作)は、最大で 60% のナルコレプシー患者で発生します。その他の症状としては、夜間の睡眠障害です。入眠時および起床時にそれぞれ発生する幻覚と睡眠麻痺(金縛り)があります。

ナルコレプシーの根底にある病態生理学的メカニズムは、視床下部のヒポクレチン(オレキシン)産生ニューロンの選択的損失によって引き起こされるヒポクレチンシグナル伝達の欠乏であり、自己免疫関連による破壊の結果であると考えられています。ヒポクレチンの欠乏は、覚醒を促進する神経伝達物質であるノルエピネフリン、ドーパミン、セロトニン、およびヒスタミンの合成に関与するニューロンへの興奮性シグナル伝達を減少させ、その後の覚醒系の活性化の抑制につながります。

遺伝的要因 (ヒト白血球抗原 [HLA] クラス II 遺伝子座DQB1 *06:02 およびDQA1 *01:02における密接に関連した多型、これらは一緒になって DQ0602 ヘテロ二量体を形成します)および環境要因 (感染やワクチン)がナルコレプシーの発生に寄与すると考えられています。

現段階では、ヒトのナルコレプシーは、オレキシン神経の自己免疫機序による後天的な破壊に伴う神経伝達障害よって生じるという仮説が有力です。また、髄液のオレキシン値低下は睡眠障害国際分類第 2 版においてナルコレプシーの補助診断基準として採用されています。(2020, Thorpy)

■ナルコレプシーと、感染およびワクチン

2009 年から 2010 年にかけての Pandemrix ワクチン(H1N1 型インフルエンザ A ウイルスワクチン)接種キャンペーンの後、ナルコレプシーのリスクは、子供と青年で 5 倍から 14 倍、成人で 2 倍から 7 倍に増加しました。観察研究によると、ナルコレプシーのリスクは、Pandemrix ワクチン接種後 2 年間上昇しました。

また、H1N1 の自然感染後のナルコレプシーのリスクの増加が、パンデミック インフルエンザのワクチン接種が行われていない中国から報告されました。Pandemrix 関連のナルコレプシーの症例はすべて、HLA クラス II DQB1*06 が陽性です。

Pandemrix ワクチンおよびH1N1 型インフルエンザ A ウイルスに含まれる共通の抗原成分とヒトタンパク質/分子との間の分子模倣および交差反応性が、自己免疫疾患であるナルコレプシーの発症に寄与することが想定されます。(2018, Sarkanen)

ダニ媒介性脳炎ウイルスワクチン接種後に、脱力発作を伴うナルコレプシーが発症したことが報告されています。(2016, Hidalgo)

ナルコレプシーの発症時にレンサ球菌感染率が増加します。(2010, Fontana)

EBウイルス脳炎感染後にナルコレプシーを発症することが報告されています。(2022, Zhao)

■ナルコレプシーと新型コロナワクチン

新型コロナワクチン接種後の副作用調査で、過剰な日中の眠気が世界中から報告されています。オレキシンニューロンの障害が想定されています。(2022, Garrido-Suárez)

新型コロナ後遺症の患者189人中では、42名に不眠(22.2%)、6名に過度の眠気(3.17%)の症状があることが報告されています。(2022, Moura)

治癒していたナルコレプシーの既往のある19歳女性に新型コロナワクチンを接種したところ、ナルコレプシーが再発したことが報告されています。(2021, Wu)

周期性傾眠症(クライネ-レビン症候群)の寛解期の患者が、新型コロナウイルス感染後に再発した2症例が報告されています。(2022, Frange)